裏切りの代償……

不倫は税金面でも高くつく?

夫婦の財産分与は課税対象か


 2016年は、あちこちで「浮気」や「不倫」という単語が飛び交っている。本人らの道義上の責任はどうあれ、日本では1947年に姦通罪が廃止されて以降、そういった行為自体は犯罪でないことは言うまでもない。ただし民事的責任となれば話は別で、離婚ともなれば慰謝料に財産分与に養育費とさまざまな形での負担が発生し、もちろん税も例外ではない。


 伊丹十三監督の映画『マルサの女』では、山崎努演じる会社経営者が内縁の妻について語るシーンがある。

 

 「もう少し情が移ってきたら結婚して、本当に愛情がわいて財産を分けたくなったら、離婚するんだよ。離婚して慰謝料をガバーッと払うの。慰謝料には税金かかんないからね。そうやって財産を移しといて、また彼女と結婚するの」

 

 この言葉に対しては主人公が「財産を移した途端に彼女が逃げちゃう可能性もありますね」と厳しいツッコミを入れるわけだが、男の言うとおり、離婚に伴う慰謝料には原則として税金がかかることはない。これは不倫相手から得た慰謝料なども同様の扱いで、損害賠償金や慰謝料などによる収入は原則として非課税とされている。

 

 ただし男が計画を実行したとして、思惑通りに相手に財産を移せるかといえば難しいかもしれない。慰謝料のうち非課税となるのは、あくまで「社会通念上それにふさわしい金額」のみとされている。心に受けた傷を金額に換算するのは非常に難しいとはいえ、あまりに高額な慰謝料は過大だとして課税される可能性がある。近頃世間を騒がせている芸能人や政治家たちは大変な財産持ちのため、もし離婚に発展すれば莫大な慰謝料が発生するだろうが、それでも限度はあるということだ。

 

 ちなみに過去にあった芸能人の不倫による慰謝料の最高額は、国内では1988年に離婚した演歌歌手・千昌夫が前妻に対して支払った50億円といわれている。生涯の伴侶を裏切った代償は、かくも高くついている。

 

 では夫婦が離婚する際の財産分与にまつわる税金はどうなっているのだろうか。離婚での財産分与によって現金や不動産、株式などの資産を受け取った場合、贈与税は原則として一切かからない。これは、財産分与は夫婦の持っている財産を精算するだけで、新たな財産の取得ではないという考え方による。養育費も同様に非課税となる。

 

 ただし慰謝料と同様に、正当と思われる金額を大幅に逸脱しているときには課税の対象になり得る。おおむね「夫婦の財産の2分の1」を大きく超えた場合に課税される可能性があるようだが、実際にはあくまで夫婦の資産状況や離婚の原因などで総合的に判断される。また離婚したにもかかわらず仲良く共同生活を続けているなど、そもそも離婚自体が財産移転のための方便だと判断されたときも、課税される。冒頭に挙げた映画のような偽装離婚は認められないということになる。

 

タイミングで変わる2つの節税法

 分与で得た不動産については、取得税は免除されるものの、改めて登記を行う際の登録免許税は免除されない。また、言うまでもないが、取得以後の固定資産税の課税義務は免れない。

 

 財産を受け取った側に原則として課税義務が生じない一方で、財産を渡した側については事情が異なる。住宅や土地などの不動産を分与によって渡したときには、譲渡所得があったものとして所得税が課されるのだ。財産をタダで手放した上に課税までされるというのだからなんとも無体な話ではある。

 

 ただし、すべてのケースで税負担が発生するかといえばそうでもない。まず、分与する不動産の価値が取得時より下がっていれば、そもそも譲渡益が発生していないとみなされて税額はゼロとなる。住居は買った時より手放す時のほうが価値が下がっていることがほとんどなので、実際にはこの時点で課税される可能性は大きく減ると言っていい。

 

 もし取得したときよりも価値が上がっている場合には、税負担を抑える2つの方法がある。

 

 1つ目は、「居住用財産の譲渡所得の特例」だ。この特例は、自分が居住している住居を売却したとき、3千万円までを譲渡所得から控除できるというものだ。ただし別荘や投資用のマンションなど、自宅以外の不動産には適用できないことに加え、「夫婦間や親子間の譲渡には適用されない」という注意点があることを覚えておきたい。つまりこの特例は、離婚後に使わなければ意味がないということだ。

 

 そして2つ目は、「贈与税の配偶者控除の特例」だ。20年以上婚姻関係を続けている夫婦間で住宅を譲り渡すときには、2千万円までを非課税とするもので、通常の暦年贈与の非課税枠と合わせて2110万円まで税金がかからないことになる。1つ目の特例とは逆に、こちらは配偶者でなければ適用されないため、離婚後には使えない。離婚前にしか使えない配偶者控除と、離婚後にしか使えない譲渡所得の特例。2つの方法で、財産分与にまつわる税負担を抑えられるわけだ。

 

 ただし言うまでもなく配偶者を裏切ったことによって失うものはお金だけではない。そのなかには二度と手に入らないものもあるだろう。釈明に追われる有名人たちの姿を、他山の石として行動したい。

(2016/05/20更新)