マイホームの駆け込み契約

8%適用で損することも


 3月中に建築請負契約を結べば、たとえ物件の引き渡しを受けるのが10月以降になっても、消費税の増税分を負担しなくて済む。ただ、増税前の税率を適用してマイホームを購入したからといって、必ずしも増税後より安く済むとは限らない。10月以降は住宅ローン控除による減税幅が拡大するとともに、ローン適用者を対象にした一時金も増額されるなどの優遇措置の拡充があるためだ。さらに10%税率を適用した新築物件が省エネや耐震対策に優れたものであれば、最大35万円分相当の「次世代住宅ポイント」も受け取れ、その金額分が〝お得〞となる。住宅の価格の変動にアンテナを張ることに加え、様々な制度の中身を押さえておくことで、マイホーム購入のベストタイミングを知ることができる。


 過去2回の消費増税を振り返ると、いずれも注文住宅の着工件数は税率引き上げの1年ほど前から増え、半年前にピークを迎えて、徐々に減少していって増税後に激減している。半年前に増える理由は、物件の引き渡しが増税後になっても増税前の税率で据え置かれる「経過措置」の対象になる期限が、増税の6カ月前とされているためだ。

 

 消費税は商品の引き渡し時の税率が適用される。そのため、契約の時期が増税前であっても、商品の引き渡しが10月以降なら、原則として税率は10%となる。だが引き渡しの時期にかかわらず、増税の6カ月前までに契約すれば、経過措置によって増税前の税率が適用される。今回の増税で言えば、物件の引き渡しや支払いが増税後でも、3月31日までに契約すれば税率8%が適用されることとなる。

 

 住宅についての経過措置はあくまでも、自宅の建築を業者に任せる請負契約を対象としている。そのため、分譲マンションや建売住宅の売買契約といった、所有権の移転を目的にした契約には適用されない。ただしマンションの購入などであっても、フローリングや壁紙、扉のタイプを自由に選択できるオプションがついているものであれば、その設備に関する工事の部分は請負となるので、経過措置の対象となる。

 

税率の違いだけで契約するのは禁物

 3月までに契約しなかったとしても、税率が8%の時期に物件の引き渡しを受ければ増税の影響を受けないで済むが、必ず増税前に引き渡されるという保証はない。

 

 ただし、税率の違いだけを判断材料にした駆け込みでの契約は禁物だ。増税後は増税前と比べ、有利な住宅ローン減税の利用や高額な一時金の受け取りが可能であるため、税率が10%になっても負担に大きな違いはない。さらに、新設される「次世代住宅ポイント制度」の適用条件に当てはまれば、8%税率での契約よりも全体の負担が軽くなる。

 

 政府は駆け込み需要後の買い控えを抑えるため、増税後の購入に対する負担軽減策を手厚くしている。安倍晋三首相は昨年10月、不動産などの「大型耐久消費財」の売買について「(2019年)10月1日以降の購入にメリットが出るように、税制・予算措置を講じる」と発言し、19年度の税制改正大綱や予算案を公表する前の段階で、増税後の購入を優遇する方向性を示していた。その後に公表された施策を見ると、優遇策の条件に当てはまりさえすれば、税率引き上げ分の2%の負担が解消されるだけではなく、上積みの〝メリット〞も受けられることが分かる。

 

 このうち税率2%分の負担解消については、19年度税制改正に住宅ローン減税の拡充という形で盛り込まれた。今年10月から20年末までに住宅を購入し、住み始めたマイホームについて、控除期間が現行の10年から13年へと3年間延長される。

 

 現在の住宅ローン控除は、年末の借入残高(上限4千万円)の1%が10年間、所得税や住民税から控除される制度だ。最大で1年あたり40万円、10年合計で400万円が税額控除される。長期優良住宅などの認定住宅は住宅ローン残高(上限5千万円)の1%が減税となる。

 

 税制改正後はこれが3年間延長され、その期間は建物価格の2%の金額が3年かけて還付される。要するに消費増税分の負担を住宅ローン減税の控除額上積みで帳消しにするという構造になっているわけだ。なお、建物価格の2%を3等分した額より、借入残高の1%に相当する金額が少ない場合の控除額は、借入残高で計算することになる。

 

 また、所得税額が少額の人が受け取れる「すまい給付金」も、増税後は額が引き上げられる。現在は年収510万円以下の人が最大30万円受け取れる制度だが、消費増税後は年収775万円以下の人が最大50万円受け取れるようになる。これも住宅ローン減税と同様に、消費税率の引き上げ分の補てんに当たる。

 

住宅ポイントの適用分がお得に

 そして増税後に購入した方が〝お得〞になるか否かは、新たに始まる「次世代住宅ポイント制度」を適用できるかどうかにかかっている。この制度では、省エネや耐震対策などに優れた住宅を消費税率10%の時期に新築した人に、最大35万円分のポイントを付与する。リフォームであれば上限は60万円。

 

 ポイントは省エネ商品や防災グッズとの交換が可能で、具体的な商品は現状では明らかになっていないが、「環境」、「安全・安心」、「健康長寿・高齢者対応」、「子育て支援・働き方改革」のキーワードに当てはまるものとされている。省エネや環境配慮に優れたもの、防災、健康、家事負担軽減、子育て関連の商品がリストアップされる予定だ。

 

 住宅ポイント制度の対象になる住宅の購入やリフォームなら、税率10%を適用した方が、増税前に購入するより負担が少なくて済むことになる。ただし、予算は合計1300億円と決められているので、予算に到達すれば制度が打ち切られるおそれがあることに注意したい。

 

 この制度は原則として、今年4月以降に工事請負契約を締結して10月以降に引き渡しを受け、消費税率が10%になる人が対象だが、今年3月までに契約を締結して8%税率を適用しても、着工が10月以降ならポイント付与の対象になる。つまり契約から着工までの期間が半年程度かかるなら、9月に工事に取り掛かるよりも1カ月後ろにずらす方がポイントを受け取れる分だけお得ということになる。

(2019/03/29更新)