マイホームの税優遇

買うならいま?それとも2年半後?

税負担の差は数百万円


 今年の4月は、当初の予定では消費税の税率が8%から10%へ引き上げられるはずだった。しかし景気の腰折れを懸念した安倍首相の判断によって増税は2年半後の2019年10月へと延期され、それに伴って多くの税制で今年4月に予定されていた改正が見送られた。なかでも影響が大きいのは住宅にまつわる税制で、見直しに合わせての物件購入を考えていた人は計画の練り直しを余儀なくされている。


 2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを安倍首相が取りやめたのは昨年6月のことだ。「新興国経済の減速で世界経済が大きなリスクに直面している」として増税を2年半先送りにし、19年10月に増税時期を再決定した。延期の判断の是非はともかく、その後、今に至るまで個人消費が一向に伸びていない状況を見れば、今年4月までに景気は回復しているという延期反対派の見通しが誤っていたことは確かだ。

 

 増税の延期に伴い、同時に導入される予定だった軽減税率やインボイス制度、自動車関連税制など多くの制度で見直しが延期された。住宅税制でも、住宅資金贈与の非課税特例では非課税枠の拡大が先送りにされ、住宅ローン減税とすまい給付金制度は延長と、各制度に大きな影響を与えた。

 

 影響を受けた制度のうち、住宅資金贈与の非課税特例を詳しく見てみる。同制度は、親や祖父母など直系尊属からマイホーム資金の一括贈与を受けた時に、一定額まで贈与税を非課税とする制度だ。具体的には、省エネや耐震性能に優れた住宅については1200万円、それ以外の住宅は700万円までの贈与が非課税となる。贈与を受ける側の年収が2千万円以下で、年齢が20歳以上であることなどが条件だ。

 

 同特例について、政府は増税後の消費の落ち込みに対するカンフル剤として、大幅な非課税枠の拡大を予定していた。増税1年目については省エネ住宅などで3千万円、それ以外でも2500万円の非課税枠を用意し、2年目もそれぞれ1500万円、1千万円の贈与まで非課税にするものだ。

 

 本来であれば非課税枠の拡大はすでに行われている予定だったが、増税延期によって計画は先送りにされた。増税しないのに優遇だけしても仕方がないというわけだ。延期後の新たなスケジュールは、消費税が8%の間は非課税枠を最大1200万円で据え置き、19年10月に10%へ引き上げられたあかつきには、最大非課税枠を3千万円に拡大するというものだ。延期前に予定していた拡充の内容をそのまま2年半後ろにずらしたことになる。

 

資金援助のはずが税金500万円!?

 拡充が見送られたことで、非課税枠の拡大を活用しての一括贈与を考えていた人にとっては当てが外れた形となった。親や祖父母から資金援助を受けてマイホームを買おうとしていた人にとっても同様だ。

 

 例えば親から3千万円の援助を受けて家を買おうとしていたとすると、非課税枠が拡充されていれば贈与分はまるまる全部が非課税だ。だが拡充を待たずに同じことをしようとすると贈与税がかかってしまう。具体的には3千万円から現行の非課税枠1200万円と暦年贈与の控除枠110万円を差引いた1690万円にかかる税率は、なんと45%だ。控除額を引いても、税額は495万5千円となり、じつに500万円近い負担が発生することになる。

 

 こんなばかげた話はない、それなら2年半待ったほうがいいと考えてしまいそうになるが、話はそう単純ではない。

 

 単純に金銭面だけの負担を見ても、今より2年半後のほうが有利とは決して言い切れない。当たり前だが増税されれば、その分だけ消費税は上がる。5千万円の建物を買うとすれば、同じ家でも増税後は単純に100万円分値上がりすることになる。

 

 さらに住宅そのものの価格が上がっていることも考えられる。3月21日に発表された全国の公示地価では、住宅地の地価がリーマン・ショック前の08年以来9年ぶりに横ばいとなり、下げ止まった。地方ではまだ下落が続くエリアが多いものの下落幅は徐々に縮まり、住宅需要の高い都市部では上昇が続く。

 

 特に東京都心ではオリンピックが開催される20年に向けて今後も地価が高騰していくことが予想され、贈与の非課税枠のピークを狙った結果、物件価格そのものもピークを迎えてしまっているという展開にもなりかねない。

 

 また昨年2月に導入された日銀のマイナス金利政策によって、現在の住宅ローンの金利は「今より上がっても、この先さらに下がることはない」(都内の不動産仲介業者)と言われるほどの低水準だ。日銀の黒田東彦総裁は現在の金融政策を継続する方針を示しているため低金利は当面続くとは見られるものの、マイナス金利の終了とともに住宅ローンの金利が跳ね上がる可能性も否定できない。そうなれば、物件購入にかかる金銭面での負担が簡単に数百万円増えることも考えられる。

 

 とはいえ、増税による金銭面での負担は物件の価格そのものや手元資金によって大きく変わってくる。また贈与の額によっては、拡充前だろうが後だろうが関係ないということもあり得る。

 

 身もふたもない話をしてしまえば、住宅を購入するとして今と2年半後とどちらが有利かという話は、「状況による」と言わざるを得ない。贈与によってなるべく多くの相続財産を減らすことを重視するのならば当然2年半後が有利だが、購入者の金銭面での負担を減らすとは言い切れない。またマイホーム購入は出産や育児といった人生の大きなイベントにも絡むため、それらを2年半先延ばしにすることが良いか悪いかは重々検討する必要があるだろう。

 

 さらには、19年10月に消費増税が行われないという可能性も頭に入れておきたい。増税延期後も国内の個人消費は伸びず、20年までに財政収支を黒字化するという政府目標は未達成の可能性が濃厚だ。そうした状況下での再増税は不可能という見方もあり、もし増税がさらに延期、あるいは凍結されるようなことがあれば、贈与税の非課税枠の拡大もなかったものとされる公算が高い。そうなれば資産を非課税で移せないばかりか、単に2年半地価が上がるのを待っていただけということにもなりかねない。

 

こんなにある住宅関連の減税

 何はともあれ重要なのは、買うとなった時に使える税優遇をフルに活用することだ。そのためにも、しっかりと制度の内容を把握しておきたい。

 

 住宅資金贈与の非課税制度の対象となるのは、原則として新築か築20年(耐火建築物なら25年)以下、50㎡〜240㎡の家屋。床面積の2分の1以上が購入者の居住スペースであることが求められる。また100万円以上かかる増改築でも制度を利用できる。

 

 重要なのは、該当するかどうかで非課税枠が倍ほど変わる「省エネ等住宅」の基準で、具体的には①断熱等性能等級4以上、②一次エネルギー消費量等級4以上、③耐震等級2以上、④免震建築物、⑤高齢者等配慮対策等級3以上――の「いずれか」に当てはまるものが最大の非課税枠を利用できる。さらに詳しい基準は専門的になるため省くが、大手住宅メーカーの新築物件ならば、おおよそどれかを満たしていることが多いようだ。

 

 税優遇をフルに活用するためには、この省エネ等住宅に該当するかどうかが大きなポイントとなるため、必ず不動産業者や住宅メーカーに確認するようにしたい。例えば今1500万円の贈与を受けたとすると、省エネ住宅ならば贈与税は19万円、そうでなければ117万円と顕著な差が出ることになる。

 

 またマイホームを買ってローンを組むなら、当然住宅ローン減税が使える。同制度は年40万円を限度に、ローン残額の1%を10年間にわたって控除できるもので、10年間合計して最大400万円のローン負担を減らせる。単純計算で、4000万円のローンがあるなら、最初の10年については月々の返済負担が約3万円軽減されると考えていいだろう。

 

 その他にも住宅にかかる費用が軽減できる措置としては、耐震、バリアフリー、省エネなどの基準に沿ったリフォームを行った時に、工事費用の1割を最大200万円まで控除できる減税措置などもある。使えるならば使っていきたい。

 

 最後に、増税延期と不動産の関係で忘れてはならないのは、アパート経営などの不動産投資にも影響があるということだ。事務所など事業用の賃料には消費税がかかるが、住居用の家賃については、人間が生きていくために最低限必要な住居に消費税をかけるのは好ましくないという政策上の理由から非課税取引となっている。今後増税が実施された時、消費税分を家賃に転嫁できればよいが、人口減少やアパートの過剰供給によって空室率が高まるなか、家賃の値上げは入居者離れを加速させる恐れもある。一方でリフォーム代や修繕費には当然ながら消費税がかかるため、10%に増税されれば維持コストがかさむことになり、アパート経営は今後さらに難しくなっていくものと予想される。

 

 不動産投資をしているならば、増税が見送られた2年半を〝猶予〞ができたと捉えて、今から収益性の向上や前倒しでのリフォームなどに取り組んでおきたいところだ。

(2017/05/05更新)