国税当局の処分に不服があるときに行う審査請求の手続きの仕組みが、4月1日以降に受けた国税処分から変わった。当局に異議申し立てをした後でなければ国税不服審判所に審査請求できなかった制度が見直され、直接の審査請求が可能になった。このほか、不服を訴えることができる期間が延長されるなど、全体的に納税者に有利な変更となっている。不利益な国税処分を受けたときに備え、納税者は新しい不服申し立て制度を知っておかなければならない。
行政処分への不服申し立ては「行政不服審査法」に基づいて行うが、国税についての不服申し立ては同法ではなく、「国税通則法」の規定に基づいてすることになっている。このふたつの法律は共通部分が多く、平成26年に不服審査法の改正が決まった際、関係法令である通則法も見直されることとなった。新しい国税不服申し立て制度は今年4月以降の処分を対象に適用される。
通則法の改正で、国税当局に再度の調査を求めずに直接審査請求するという選択肢が選べるようになった。
これまでは、国税局や税務署に異議を申し立てた後でないと、原則として国税不服審判所に審査請求することはできなかった。しかし今後は、最初から国税不服審判所長への「直接審査請求」をすることが可能になり、国税局長や税務署長への「再調査の請求」(異議申立てから名称変更)とのどちらかを納税者が選択できるようになった(図)。
不服審査手続きに詳しい内田久美子弁護士(和田倉門法律事務所)は、納税者の選択肢が増えたことに対して、「訴訟を見据えて不服申し立てをする納税者にとって、今後は、より迅速な解決を期待できるようになるだろう」と、納税者の権利拡大に向けて前進したことを評価する。
事実認定だけではなく法解釈について争うような事案では、訴訟を前提に不服申し立てをすることが多い。しかし、訴訟は審査請求を経た後でなければ提起できない仕組みになっている。異議申し立てで国税処分が覆る可能性は高くないうえ、その処分に約3カ月掛かるといわれており、「訴訟ありき」で不服を申し立てる人にとって、「国税当局への異議申し立て(再調査請求)→不服審判所への審査請求」といった二段階の手順を踏んだ後に訴訟に移るのではなく、最初の時点で直接審査請求することで一段階分ショートカットできることを内田氏は大きなメリットと見ている。
今回の改正では、不服申し立て期間も見直される。税務署への異議申し立てはこれまで「処分があったことを知った日」の翌日から2カ月以内が期限だったが、再調査請求は3カ月以内に伸張される(直接審査請求も同様の期限)。前述の内田氏は、「処分を受けた後に初めて専門家に相談する人もいるなかで、2カ月はあっという間。3カ月に延長されることでこれまでより充実した準備が可能になる」と評価する。
なお、不服申し立て期間については、日本税理士会連合会が3年前の意見書で、「行政事件訴訟法の出訴期間(行政訴訟を提起できる法定期間)と同様の『6カ月』に延長するべき」と、さらなる期間延長を求めている。
このほか改正法には、証拠書類の閲覧範囲拡大とコピーの受け取り制度導入が盛り込まれている。これまでは、国税当局が任意に選んで提出した書類しか納税者は閲覧できなかったが、今後は審判所の担当審判官が要請して国税当局に提出させた書類も閲覧できるようになる。
また、これまでは閲覧した資料の写しの交付請求はできず、納税者や代理人は審判所に出向いて証拠の記載内容を書き写すという、きわめて非効率な作業を強いられており、関係者数人で不服審判所に赴いて1日掛かりで作業をすることもあった。今後はコピーの交付を受けられるようになる。内田氏は「最終的に訴訟となったときには証拠が重要な役割を果たす。早い段階で各種資料を納税者が入手できる意義は大きい」と、訴訟を見据える人にとって有利になることを歓迎している。
国税当局から不利益な処分を受けたときに備え、不服申し立て制度の理解と、相談できる専門家とのつながりをふだんから持っておきたい。
(2016/04/30)