ドサクサ紛れに出国税成立

モリカケ、公文書改ざん、首相案件…

負担者≠受益者という異例の目的税


 モリカケ問題を巡る財務省の公文書改ざんなど、数々の〝首相案件〞で揉めに揉めている今国会だが、そのドサクサの中で27年ぶりとなる新税「国際観光旅客税」が創設された。政府は、「観光立国ニッポン」を加速し、さらなるインバウンド効果を狙うための財源にするというビジョンを掲げるが、法成立後も税収の使途はどうにもはっきりせず、単なるハコモノ整備に加え、カジノ(IR)推進に使われるだけではないかと危惧する声すら上がっている。負担者が受益者とならないのであれば目的税としては極めて異例な事態だ。果たして誰が幸せになる税金なのか――。


 観光立国としての資源確保を目的とする「国際観光旅客税」が成立した。日本から出国する際に税金をかける「出国税」で、飛行機や船で外国に渡航する2歳以上の人に対し、1人当たり一律1千円を徴収する。日本への入国後24時間以内に出国する乗り継ぎ(トランジット)客は対象から外される。

 

 当初は日本を訪れた外国人のみに課税する案も検討されていたが、各国と締結している租税条約に「国籍による差別の禁止」が盛り込まれていることに配慮して、日本人にも同様に課税することとなった。施行は2019年1月7日。

 

 2017年に日本を訪れた人は、速報値で4558万人(外国人2769万人、日本人1789万人)。1人につき1千円を徴収していれば453億2千万円が確保できたことになる。なお18年度の観光庁の予算は248億円であるため、これをはるかに上回る。

 

 政府は、初年度(18年度)は1月から3月の3カ月間で約60億円、平年度は約240億円の税収を見込んでいる。

 

 そして東京五輪が開催される20年は4千万人の訪日客を見込み、さらにその10年後の30年には訪日観光客6千万人の目標を立てていることから、実現した際の税収は600億円にのぼることになる。恒久税化も十分に考えられる額だ。

 

税収の使途は不透明なまま

 訪日外国人の数は1977年に100万人、2002年に500万人を超え、13年には大台の1千万人を突破。近年は中国人観光客の「爆買い」に象徴されるブームもあり、17年は2869万人に達している。

 

 今回の「出国税」はこうした流れを加速させるべく成立したもので、その税収の使途を定める「国際観光振興法改正案」も今国会で可決している。観光業界はもとより各種サービス業の期待は当然高まったが、その中身はどうにもはっきりしないものだ。

 

 出国税の使途となる大きな柱は、①快適な旅行環境の整備、②日本の多様な魅力に関する情報発信強化、③地域固有の文化・自然などを活用した観光資源の整備による満足度向上――という3分野で、それぞれ誰が見ても反論する余地はないものだが、範囲があまりに広い。業界からは「バブル期と同じように、土建業界に流れるだけではないか」(東京・大田区の旅館経営者)といった諦めの声も聞かれる。

 

 実際、18年度に見込む60億円の税収から観光庁に回るお金は35億円程度と見られ、残りは空港や周辺道路の整備に充てられる予定となっている。利用目的として「観光のため」というお題目が入れば、「何にでも使える便利な税収になるだろう」(東京・豊島区の税理士)という見方も出ている。

 

 そもそも、この税の成り立ちがあまりにも急で、モリカケのゴタゴタの中で「ふってわいた」という印象は拭えない。「国際」の名のつく税制では、感染症対策や地球規模の温暖化対策を目的とした「国際連帯税」の新設を外務省が9年連続で要望しているが、こちらはなかなか実現しない。一方、今回の出国税はあっという間に持ち上がり、昨年の国会のゴタゴタと衆院解散、さらに今年も続くゴタゴタのなかで、ほとんど議論もなく成立した。なお、政府税調でも議論をした様子がないことから、官邸が一気にねじ込んだという印象だ。

 

 さらに、「好き勝手に使える」ことで危惧されているのが、安倍政権が観光政策の目玉として推し進めるIR(統合型リゾート)への予算配置だ。IRの根は言うまでもなくカジノ(賭博)であり、その推進には国民の意見も大きく分かれるのが現状だ。

 

観光のためではなくカジノのため?

 国会でも野党議員による「カジノ誘致に(税収が)使われることはないのか」との問いに、観光庁の田村明比古長官は、IRは内閣府で「設計中」であるため、「現時点では答えられない」と明言は避けた。「観光のため」という広い目的に合致するとしても、出国税がIR誘致の財源となれば、行き過ぎ感を国民が抱くことも考えられる。

 

 また、全閣僚が参加する「観光立国推進閣僚会議」(座長:安倍首相)でまとめた「観光ビジョン実現プログラム2017」には、観光施策の財源として、「観光施策を実施するための国の追加的財源を確保するため、観光先進国を参考に受益者負担による財源確保を検討(する)」と明記されている。ここで注目したいのは、目的税の基本理念である「受益者負担」の原則だ。空港整備はまだしも、IR誘致やハコモノ建設が納税者(負担者)にどれだけ受益となるのかは大いに疑問が残る。

 

 そのうえ、税額が一律ということで格安航空券を利用する大衆層に負担増となる仕組みは、消費税同様、広く一般国民の消費(渡航)にブレーキをかけることにつながる。観光推進のための税金が旅行者を減らす結果につながってしまっては本末転倒だ。

(2018/07/02更新)