デジタル化 一気呵成に警戒!

税制面までも推進


 デジタル化に関連する政策を複数の省庁にまたがって担っていくデジタル庁の新設に向けて菅政権が作業を加速させている。国税当局でも納税者の預貯金情報を入手するため、デジタル化での手続きの実証実験を10月からスタートさせたが、税務調査で納税者の権利を侵害することにつながる危険性は否定できない。メディアの多くはデジタル化の普及に肯定的な論調だが、コロナ禍に乗じて国民の合意形成をなおざりにしたままで、税制面までも推進されることがあってはならないだろう。


 あらゆる社会インフラのデジタル化について菅首相は「一気呵成に普及を進める」と力を込める。これを多くのマスコミは肯定的に報じているのだが、政府が個人情報の管理を強めることに対し、国民の不信感は根強い。マイナンバーカードの普及率が2割に達していない現状は、情報を一元管理しようとする国を、世間が信頼していない証だろう。

 

 確かに政権がデジタル化を急ぐ気持ちも分からないではない。コロナ禍では、各種給付金のオンライン申請でトラブルが続発し、デジタル化の遅れが浮き彫りになった。一律10万円給付の手続きで中央省庁と地方自治体のシステムがうまく連携せずに給付が遅れたことでも、国民からの批判を浴びた。省庁を結ぶテレビ会議すら開けず、感染者数データをファクシミリで送るなど、時代にそぐわないお粗末な実態があきらかになった。

 

 菅政権はマイナンバーを身分証明書や預金口座と紐づけ、役所に行かなくてもあらゆる手続きができるようにすることを政策の大きな柱に掲げている。またマイナンバーカードを運転免許証と一体化する方向で検討し、現在の免許証の廃止も視野に入れているという。そして国家資格証とも統合する考えだ。税、社会保障、災害の3分野の行政事務に限って活用できるとされていたマイナンバー制度だが、その用途は際限なく拡大されていきそうな気配だ。

 

NTTデータと提携し実証実験

 そんななかで、国税当局が納税者の預貯金情報を入手する手続きをデジタル化するため、NTTデータと提携した実証実験を10月にスタートさせた。紙で行っている照会手続きをペーパーレス化することで大幅な業務効率化が見込め、納税者の所得を捕捉する動きがよりスピーディーになるという。

 

 国税局・税務署が、金融機関に対して行っている預貯金等照会は、全て紙ベースで行われている。このため金融機関では開封・仕分け、作成した回答書類を紙出力し郵送するといった業務負担が生じており、また国税当局でも同様に回答書類の開封・仕分け・保管等の事務作業があった。これをデジタル化によって効率化するというものだ。

 

 昨年12月末に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」には、「金融機関に対する預貯金等の照会・回答」がオンライン化対象手続として記載されている。この実行計画では、滞納処分のほか、所得税、法人税、消費税、相続税などの手続きもオンライン化の対象とされている。

 

 預貯金等の照会を通じた行政手続のデジタル化を実現するため、2021年度末までに120の金融機関と300自治体への導入を目指すという。

 

納税者権利と効率化を秤に

 岡田俊明税理士(東京・世田谷区)は『税理士新聞』1680号で「国税庁における預貯金等照会業務とは、国税通則法規定の質問検査権行使に当たるものであり、この公権力の行使に対する金融機関内部の単なる業務処理合理化の問題ではない以上、納税者、国民の権利にかかわる重要な問題である点を無視するわけにはいかない」とし、預貯金等の照会は銀行調査そのものであり、納税者本人への税務調査ではなく、その取引先に対する反面調査にあたる点を指摘している。

 

 国税通則法には、「取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討する」との記述がある。

 

 そして銀行調査についても通達で「普遍的に、個人別の預貯金等の調査を行うようなことは、これを避ける」とし、「通達の運用につき慎重を期するため」「税務署長等の証印のある書面を調査先の金融機関に呈示する」とされている。

 

 岡田氏は「納税者の権利にかかわる問題をいとも簡単に効率化と秤にかけるというのは、無謀に過ぎる。税務署でキーを叩けば銀行取引等が自動的に把握できるという時代は『便利』で済ませられるものであろうか」と、銀行調査手続きのデジタル化の動きに疑問を投げ掛けている。

 

 個人情報を国が一元管理することは、監視社会化につながる危険性がある。その前提で「国民が許容できるレベルとはどの程度なのか」「その中で守るべきものは何か」ということを、民主税制下の納税者は議論する必要があるだろう。国は国民との対話を重ね、合意形成をもって初めて、個人情報を預かる資格を得ることができる。強大な管理社会につながりかねないデジタル化への移行は、政府がコロナ禍に乗じて〝一気呵成〟に進めるべきものではないだろう。

(2020/12/03更新)