国土交通省が公表した2020年の基準地価は、新型コロナウイルス感染拡大の影響の大きさをまざまざと見せつける結果となった。7月時点での地価への影響は軽微と予想されていたが、住宅地・商業地ともに下落し、全用途で3年ぶりのマイナスとなった。今後下落傾向が長期化すれば、相続対策を含めた土地の出口戦略を練り直さなければならない。不動産オーナーが今やるべきことは何か。
国土交通省はこのほど、2020年の基準地価を発表した。3月に発表される公示地価がその年の1月1日時点での価額を表すのに対し、基準地価は7月1日時点での地価を反映することから、公示地価を補完する性格を持つともいわれる。
1月時点の地価を表す公示地価には新型コロナウイルスの影響が反映されていなかったことから、コロナ後で初の地価発表となる基準地価に注目が集まっていた。
それによると、これまで継続して回復基調にあった地価は軒並みマイナスに転落した。全国の全用途は前年のプラス0・4%から0・6%のマイナスへ、3年ぶりに下落。商業地への影響はさらに顕著で、前年の1・7%増から0・3%減へと大幅に落ち込んでいる。都市部の開発をけん引していた訪日観光客の消失がブレーキとなった。住宅地は前年のマイナス0・1%から上昇局面へ転換することが期待されていたが、結果は0・7%の下落と、大きく後退してしまった。
地域ごとにみれば、東京圏、大阪圏、地方中枢都市(札幌・仙台・広島・福岡)など一部の都市部ではプラスを維持したが、それぞれ上昇幅は縮小している。上昇を維持したエリアについても「1年間の後半は横ばいまたは下落となっている地点が多いと考えられる」と国交省は分析する。これまで数年かけて回復してきた分が、この半年ほどですべて吹き飛んでしまったわけだ。
言うまでもなくコロナ禍は現時点で終息しておらず、どれだけ長期化するのかもいまだ見通せない状況にある。今後再び流行が加速して緊急事態宣言が出される可能性もゼロではない。
今後の地価の状況について、一般社団法人不動産協会の菰田正信理事長は、「先行きも極めて不透明かつ不確実性が高い状況にあり、引き続き十分注視する必要がある」と強い警戒感を示した。
新型コロナが地価へ及ぼす影響は、むしろ今後本格化するとの見方もある。多くの土地評価に関わってきた都内の不動産鑑定士は、「基準地価は7月時点というものの、その評価の基になったのはさらに以前の取り引きで、最新の実勢価格とはタイムラグがある。今回の基準地価は、新型コロナの影響を少し先食いしただけに過ぎない」と語る。さらに同鑑定士は、「経済の動向が少し遅れて地価に影響する過去の例を考えれば、真の〝地価崩落〟は来年以降にやってくる」と予想する。
そうしたなかで、土地オーナーはどのような土地対策を講じていくべきか。ここ数年は地価が顕著な上昇傾向にあったことから、相続税の負担が重くなってしまうリスクが生じていた。そのため売却を含めた出口戦略や納税資金の確保が併せて求められてきたのが近年の土地対策の特徴だった。
上昇し続ける地価を基に相続財産としての価値を想定して、遺産分割の際のバランスを考えていた場合、今後は地価の下落を踏まえた再計算が必要となる。例えば後継者である長男には自社株のすべてを引き継がせる一方で、次男には自宅を相続させることでバランスを取っていたとしても、自宅の価値が下がってしまえば次男の不満のもとになりかねない。自社株を分散させたくないのであれば、それに代わる現金や生命保険などを用意しなければならないケースも出てくるだろう。
相続時には、土地の評価額は国税庁の定める相続税路線価に従って算定されることになる。7月に発表された今年の路線価は、前年比で1・6%のプラスとなり、5年連続で上昇している。路線価は、公示地価と同じく1月1日時点での地価を基準に算定しているため、コロナ禍によって実態にはそぐわないものとなっている。
この実態とのかい離については、21年度税制改正で何らかの調整が行われるとの予想もあるが、もし調整されたとしても、その基礎となるのは今回発表された基準地価だ。新型コロナによる影響を十全に反映したものとはいえない基準地価を軸にした調整では、補正が行われたとしても小幅にとどまる可能性もある。過度な期待は禁物だ。
相続対策に限らず、現在所有している土地が商業地の投資用不動産などであれば、最適なタイミングを見計らっての売却を検討する必要もあるだろう。リスク対策を講じておくことが求められる。
(2020/10/30更新)