コロナ〝倒産ラッシュ〟の危機

消費税率引き下げの声続々


 新型のコロナウイルスによる被害が拡大し、多数の人が集まるイベントが中止になるなど、日本経済に大きな影響を及ぼしている。愛知県では全国初となる「コロナ倒産」が報告され、企業活動への被害は今後も広がるおそれが否定できない。中小企業にとっては昨年10月に税率が引き上げられた消費税に加えてダブルパンチとなっている状況だ。そんななか、全国の中小企業や識者からは消費税率引き下げを求める声が上がっている。高税率と新型ウイルスの脅威から中小企業を守るため、5%への税率引き下げは最も有効で現実的な施策となりそうだ。


 消費税率の引き上げによって経営が行き詰まり倒産に追い込まれる中小企業が全国で増加するなか、三河湾を臨む愛知県蒲郡市の老舗旅館「冨士見荘」が2月21日までに事業を停止し、名古屋地裁に破産を申請した。

 

 1956年創業の同館は、温泉と海の幸などで中国人ツアー客から高い評価を得ていたが、コロナウイルス感染拡大の影響でキャンセルが相次ぎ、経営を断念するに至った。東京商工リサーチによるとコロナウイルス関連では初の経営破綻だという。3月になっても同社のウェブサイトは閉じられず、倒産後も館内や周辺の観光地を紹介するページが開けることが、倒産までの慌ただしさを物語っていた。

 

 消費税の重みに加え、コロナウイルスという新たな脅威が全国の中小企業の経営に襲い掛かってきているのが現状だ。東商リサーチの調べによると、コロナウイルスがすでに企業活動に悪影響を及ぼしているという企業は23%、今後なんらかの悪影響を及ぼすと見ている会社は44%に上った。

 

 新型ウイルス被害の広がりに国が有効な手立てを講じることができないなかで、中小事業者からは事業の継続を脅かすもうひとつの要因である消費税の税率引き下げを求める声が上がってきている。こ

 

 これまで消費税率の引き下げは一部野党が独自の提言としてその有効性を示してきたが、今年に入って増税による負担が本格的に中小企業の経営を圧迫してきたことに加え、コロナウイルスによる経済危機などが、党派や政治的立場を越えた動きへと変化させているようだ。

 

 消費税は増税のたびに国民生活や中小企業に大きな打撃を与えてきた。消費税が初めて引き上げられた1994年以降の各四半期のGDPおよび民間消費の対前月比をみると、東日本大震災とリーマンショックを除き、それぞれのワースト5にはすべて消費税増税の影響が色濃く表れている。

 

 消費税は所得の低いひとほど負担が重くなる仕組みだ。そして企業間の取引では下請け業者など立場の弱い側が自腹を切って納税しているのが現状だ。こうした税制そのものが抱える構造が滞納者を生み、差し押さえ、倒産という道を辿っている。

 

消費税増税、景気低迷、コロナのトリプルパンチ

 昨年10〜12月期のGDP速報値が前期比マイナス1・6%、年率換算でマイナス6・3%(確定値7・1%)の大幅減少となったことは本紙でも報じたが、この原因について安倍首相は「暖冬と台風の影響」などと、消費税増税の影響であることを頑として認めていない。

 

 だが、昨年1〜3月期のGDPが対前期比プラス2・6%、4〜6月期は同プラス1・9%、7〜9月期は同プラス0・5%とだんだんと下降し、消費税増税後の10〜12月期に同マイナス1・6%となったことからみても、消費税増税に原因があることは明らかだ。

 

 安倍首相は8%への増税時にも「景気への影響はワンショット」と、一時的なものとしていたが、消費税増税による不況は6年後の10%への増税時まで続き、消費支出も実質賃金も増税前に戻ることはなかった。後に安倍首相は「景気回復にも遅れが見られた」と述べるに至ったが、消費税増税による影響であることは認めず、昨年の秋に10%への増税に踏み切った。

 

 10%への消費税増税を断行したことについて米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(2月18日付)は、「日本の消費税の大失敗」と題した社説を載せ、過去2回の消費税増税と同様に経済に大きな影響を与えたとして「三度目の正直にはならず」と皮肉を込めて書いている。加えて、増税前の駆け込み消費の反動で日本の昨年のGDPが急落したのは「当然」と述べ、そのうえで、「日本が安倍首相の経済失政の代償を回避するのは手遅れ」と酷評した。

 

 5月中旬には今年1〜3月期のGDP速報が公表されるが、これについて元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は「消費増税の影響に加えて新型肺炎による悪影響で再びマイナスになるかもしれない」と、ダブルパンチの影響が継続する可能性も予測する。そして高橋氏は、「そのときは全品目に軽減税率を適用し、大型補正予算編成を行うべきだ」と、実質的に消費税の減税を行う必要性を述べている。

 

 消費税は1989年の導入以来、一貫して福祉政策の維持向上のためと言われてきた。だが、導入からの31年間で社会保障制度が良くなったという話を耳にすることはない。厚生年金の支給開始年齢は60歳から65歳に引き上げられ、そのうえ年金支給額を毎年削っていく仕組みの「マクロ経済スライド」が導入され、老後の不安は増すばかりだ。

 

 医療負担についても消費税導入前に1割だったサラリーマン本人の医療費窓口負担は3割となり、国民健康保険の保険料(税)は1・6倍に急増している。さらに今後は75歳以上の患者負担を原則1割から2割に引き上げる動きもある。

 

 また、財政再建という面でも、消費税の導入時(89年)に161兆円だった公債残高は、5%への増税時(97年)には258兆円、8%(14年)では774兆円、そして10%への引き上げ時(19年)には897兆円と、増税しているにもかかわらず増加の一途をたどっている。

 

 そもそも消費税は31年間に397兆円の税収となっているが、一方で法人3税の減収累計額は298兆円、所得税と住民税の減収累計額は275兆円に及ぶ。これは歳費の内訳をどうこねくり回したところで、実質的に消費税収の約7割が法人減税などの穴埋めに使われていることにほかならない。

 

 すなわち、中小企業経営者が自腹を切って納めている消費税が、そのまま黒字割合の高い大企業への恩恵に充てられているということだ。基幹3税の仕組みを根本から見直し、中小企業と国民の命を削っていく消費税率の引き下げを求める声が上がるのは必然といえよう。

 

実質消費拡大で税収アップ

 18年まで安倍内閣の官房参与を務めた藤井聡京都大学教授は、「20年に消費税を5%に減税した場合、短期的には20年度だけ税収が幾分下落するものの、その後消費が一気に拡大し、今後15年間で約20兆円税収が拡大する」とシミュレートしている。消費税増税で消費税以外の税収を下げるよりも、消費税減税で実質消費を拡大するほうが結果的に税収が上がっていくということだ。

 

 消費税の仕組みに詳しい富岡幸雄中央大学名誉教授も、「安倍首相は消費税のサプライズ減税の断行で消費意欲を喚起して内需を拡大し、これを日本経済復活の導火線とするべき」と、やはり消費税率引き下げによる経済効果を重視する。その財源は、大企業優遇に偏り過ぎている法人税の仕組みを「まともなもの」に是正することで十分に賄えると試算している。

 

 消費税増税による目先の収入よりも、中長期的にみた消費税増税による消費減の影響を危惧する専門家は多い。経済ジャーナリストの荻原博子氏は「消費税を増税するたびに、家計は疲弊し、消費する意欲を失う。消費意欲がなくなるので、デフレなど脱却できるはずもない」と指摘する。

 

 企業向けの対策としては、厚生労働省が雇用調整助成金の特例や特別貸付金制度を実施するほか、各種補助金制度も用意されつつある。だが、日本と同様に深刻な被害が危惧されるアジア諸国を見ると、香港で4200億円の予算を確保したほか、シンガポールでも5100億円の対策費を予算に盛り込むなど、日本とは桁違いの〝本気度〞で臨んでいる。日本においても早急な動きが求められるが、一連の腰の重さはどうしたものか。

 

 新型ウイルスの感染拡大が今後の日本経済、特に中小企業に与えるダメージは相当シリアスに考えなければならないだろう。予防と治療に全力で取り組むと同時に、政権はもうひとつの危機要因である消費税についても、税率の早期引き下げを視野に入れるべきだ。日本経済を支えているのは全事業の99・7%を占める中小企業であることを忘れてはならない。

(2020/04/03更新)