どっちが有利?

法人課税と社長報酬への課税

実効税率0.23ポイント引き下げ


 法人税の実効税率が4月から0・23ポイント引き下げられた。所得税が最高税率の引き上げなど増税路線を進むなかで、法人税の税率が下げられたことにより、同じ額の所得でも所得税ではなく法人税で納めるほうが全体の税負担を減らしやすくなってきた。特に会社と個人の資産をトータルで見る同族会社の社長は、個人の報酬を減額して高税率の所得税額を減らし、代わりに法人税を支払うことで、結果として手元に残るお金が多くなるケースもある。法人税で納めた方がトータルの税負担が減る境界線を探った。


 政府は企業の〝稼ぐ力〞の向上や設備投資の拡大を目的として、法人税率を段階的に引き下げてきた。2015年3月までは25・5%だったが、15年4月に23・9%、16年4月に23・4%へと下げ、今年4月からは23・2%となっている。

 

 これにより、法人税、法人住民税、法人事業税を合わせた利益に対するトータルの税負担を表す「法人実効税率」は29・97%から29・74%へと0・23ポイント下がった。15年3月までの34・62%と比べるとほぼ5%分が引き下げられたことになる。

 

 法人税は減税となる一方で、所得税は増税路線を進んでいる。17年には最高税率が40%から45%に引き上げられるなど、特に高所得者層の税負担が重くなっている。

 

 高所得者の税負担が重くなるなかで、社長をはじめとした役員が個人で重い税金を負担するより、役員報酬を減らして会社に残る金を増やし、その分を法人税として納めた方がトータルの税負担が減りやすくなった。

 

 社長としては報酬をたくさん受け取りたいのは当然だが、会社が使えるお金が多く残れば、それを原資に業績を向上させて将来受け取る報酬を増やすことも可能となる。会社資産と個人資産をトータルで見る同族会社の社長は多くのお金を手元に残しやすくなったと言える。

 

法人税での納税が得となる境界線

 同額の所得でも所得税と法人税で税負担が変わるのは、個人と法人の控除制度に違いがあることと、税率が異なることが理由だ。

 

 個人には、所得に応じて税率が5%から45 %に区分された所得税と、10%の住民税が課税される。これに対して法人は、所得800万円までは15%、それを超える部分は23 ・2%の法人税と、地方税の法人住民税と法人事業税が課税され、合計で所得の29・74%分が納税額となる。

 

 住民税と所得税を合計した税率は、課税所得が330万円超695万円で30%となり、法人実効税率の29・74%をわずかながら上回るので、課税所得のうち330万円を超える部分は法人税で納めた方が税金は得となる。ただ、納税額がわずかに減るというだけでは、社長が自由に使える役員報酬を減らすというデメリットに見合わない。

 

 節税額が多ければ多いほど報酬減額は意味を持つ。年収が1千万円台だと、節税額は数十万円程度となる。節税額が100万円を超えるのは、役員の年収が2千万円程度のケースだ。年収2千万円とすると、給与所得控除などを引いて単純計算した所得税と住民税は600万円程度になる。

 

 この年収を1千万円に下げれば、会社は所得が1千万円増加するので地方税を含めて300万円の法人税を新たに納めることになるが、役員個人の所得税と住民税は200万円にまで減って納税額は合計で500万円となり、元の報酬設定より100万円減ることになる。

 

 赤字の会社であれば、報酬減額はさらに有利に働く。先ほどの例では1千万円の報酬減額で会社の所得が増えた分、300万円の法人税を納めることになるが、赤字の会社なら黒字になるまで法人税は不要となる。赤字の会社は報酬減額による効果が黒字の会社より格段に高く、元の役員報酬が低額でも節税効果が発生する。税金が掛からない〝ムダな赤字部分〞を多く残すのは税金面から見ると非常にもったいない状況と言える。

 

赤字会社は報酬減額の効果大

 ここまで税負担の面を見てきたが、役員の報酬を減額すると、税金だけではなく社会保険料や厚生年金保険料の負担が減ることも大きい。健康保険や厚生年金の保険料は、報酬が高額なほど高くなる。保険料は会社と働いている人が折半しており、報酬を減額すれば、「個人の保険料」と「会社の保険料」を両方減らせる。将来受け取る年金も減ってしまうが保険料を減らせるメリットは大きい。

 

 高所得者層をターゲットにした増税は18年度税制改正にも盛り込まれ、給与所得控除の上限引き下げや基礎控除の所得要件導入などでさらに税負担が増える。

 

 給与所得控除額は、12年までは年収1千万円超の人で「収入金額×5%+170万円」と設定されており、収入が多ければ多いほど段階的に控除額も上がっていった。しかし13年度の税制改正で上限額が設定され、13〜15年は年収1500万円超で245万円、16年度は1200万円超で230万円、17年度は1千万円超で220万円と上限額が段階的に引き下げられてきた。

 

 18年度税制改正では全ての所得階層の控除額を一律10万円減額するとともに、頭打ちのラインは1千万円から850万円に、控除上限も220万円から195万円へと縮小された。

 

 すべての人に適用される基礎控除の額は一律10万円引き上げられて48万円となるが、こちらには新たに所得制限が導入されることとなる。合計所得が2400万円を超えると基礎控除が16万円減らされて32万円となり、2450万円を超えると16 万円、そして2500万円を超えるとゼロになる。

 

 ますます高所得者への風当たりが厳しくなるなかで、法人を使った節税策の効果が高まっている。業績アップ分を役員報酬に置き換えるより、法人所得として残して法人税で納めた方が得となることも多い。トータルの税負担を考えて自社に最も有利な方法を選ぶようにしたい。

(2018/05/01更新)