中小企業が「行き過ぎた節税対策」の結果として陥りがちな財務状況の悪化、いわゆる「節税ビンボー」のケースを紹介する。毎期順調に売上が増加しているのに「お金がない!」。典型的な「勘定合ってゼニ足らず」の現象は、なぜ起こるのだろうか。
会社の事業は順調で、毎期売上を伸ばしているのにもかかわらず、決算期末が近づいてくると顧問税理士の先生に「納税するお金がないのですが」などと、決まり文句のように相談するハメになってしまっている社長さんが、なんと多いことだろう。
例えばこんな会話が交わされているはずだ。
社長「先生、納税するお金がなくて困りました」
先生「あれ?業績は順調だと聞いていましたが?」
社長「間違いなく増収です。それなのになぜかお金がないのです」
先生「社長、税金を払いたくないからそういっているだけでしょ。ダメですよ。私は脱税には加担しませんよ」
社長「ウソじゃなくて、税金払うキャッシュがないんですよ!」
儲かっているはずなのに「お金がない」。中小企業でよくあるケースだ。本紙読者の社長さんたちにも思い当たる節があることだろう。
こうした中小企業の財務状況を調べてみると、ほとんどの場合、確かに売上高は増えているが、利益がまったくといっていいほど増えていない。その一方で、まず間違いなく借入金や支払手形などの負債が急増している。
そして、利益を圧迫している大きな要因が減価償却費なのだ。毎期連続して売上を伸ばしてきた「順調な会社」ほど、減価償却費の増加が目立つといえる。
数年来「順調」だったがゆえに、決算期末が迫ってくるたびに「どうせ税金で持っていかれるくらいなら」と考え、「節税対策」として社長車やオフィス用品、パソコン・周辺機器などを購入し続けてきた結果として減価償却費が累積拡大したわけだ。
きわめて単純なことだが、意外とこの悪循環に気づいていない社長さんが多い。儲けたお金を設備に投資すれば、減価償却費という「経費」が増えるのだから、一時的な節税効果を生み出すことは間違いのない事実。
しかし問題はその代金の支払方法にある。通常、車両なら4年〜6年に分割して経費化するが、車両購入のために組んだローンの返済期間がそれよりも短い3年などに設定されていれば、当然「お金が足りない」ということになる。
オフィス用品やパソコン・周辺機器などにもそれぞれ償却期間があるのだから、それよりも短期の借入で資金を調達していれば、返済金額の増加によって「お金が足りない」状態になるのは必然的なことだ。
借入金の返済期間が減価償却の耐用年数よりも極端に短い場合、営業キャッシュフローの面でプラスに作用した「減価償却費」よりも、財務キャッシュフローの面でマイナスとなる「毎月の返済額」のほうが大きくなってしまうのは当然のこと。
この不足分は、税引後利益を充当して補填するか、運転資金の追加融資によって穴埋めすることになるが、「税金を払うくらいなら」という動機ではじめた「節税対策」なのだから、税引後利益がこの不足分を補うほど出ているわけはなく、結果として借入金が急拡大してしまう。
ここで、本末転倒な会話が交わされるこ とになる。例えばこんな感じだろうか。
先生「社長、こんなことを続けていると銀行が融資を断ってきた時点で倒産ですよ」
社長「そうはいっても先生、この状態で税金まで払っていたら、それこそ倒産ですよ!」
「税金を払うくらいなら」という動機や「納税するための資金が確保できないから」などといった理由ではじめた「節税対策」だから、なんとかして利益を出さないようにする。そのために借入資金で設備投資を繰り返し、結果として返済の負担に耐えられなくなる。
なんという悪循環。まさに「節税ビンボー」の典型だ。
金融機関も甘くはないので、利益を出していない会社に対して、そうそう簡単には運転資金を貸し付けなくなる。もはやこうなってしまっては、企業財務のプロに立て直してもらわない限り、この悪循環からの脱却はありえないし、企業の存続そのものが危うくなる。
社長さんがこの段階でいうべきセリフは、例えば次のようなものになるだろう。
社長「先生、なんとかしてください!」
そう。まずは最も身近な「社長の味方」である税理士・公認会計士の先生に依頼して、財務状況の健全化に向けた対策を講じてもらい、その指導に沿って正しく事業を「成長」させてから、正しく「節税」を考えることが肝要だろう。
(2016/06/20更新)