消費税率が10%に引き上げられるまで残り1年を切った。増税の直前に駆け込みで商品の購入を考えている人も多いだろうが、引き上げの半年前までに契約するか否かを決断しなくてはならないものもある。契約してから受け取るまでに一定の期間が必要な商品やサービスがそれだ。引き上げ半年前の2019年3月末までに契約すれば、たとえ引き渡しが増税後になっても、税率は8%のままとする「経過措置」という特例がある。マイホームの建築の請負契約などは、早めの決断が必要かもしれない。
消費税は原則として引き渡しの時期を基準に課税されるため、契約の時期が増税前であっても、商品の引き渡しが増税後にずれ込めば消費税率は10%となる。だが、引き渡しの時期にかかわらず、増税の日の6カ月前(指定日)の前日までに契約すれば増税前の税率が適用される「経過措置」という特例がある。今回の増税では来年3月31日までの契約なら、たとえ引き渡しが増税後でも8%の税率が適用されることとなる。
経過措置は個人と会社のどちらも対象としているが、その期限を見据えた対策は個人こそ重要となる。というのも、消費税の課税事業者である会社は最終的に消費税額の計算の際に支払った消費税分を控除して、還付を受けることができるためだ。購入時に低い税率を適用できたとしても、控除額が新税率適用時よりも低くなるため、トータルの負担額には差が生じない仕組みとなっている。
経過措置の対象となる代表的な取り引きには自宅建築の契約を含む「請負工事契約」がある。あくまでも請負契約が対象であり、建売住宅や分譲マンションの売買契約には適用されない。ただ、新築マンションの購入であっても、フローリングや壁紙、扉のタイプを自由に選択できるオプションがついているものであれば、その設備に関する工事の契約は請負となるので経過措置の対象とされる。
気を付けなければならないのは、消費税の税率だけ見れば経過措置を適用した方が負担は軽くて済むとしても、親族から資金の贈与を受けて住宅を取得する人に限っては、税率10%を甘んじて受けた方がよいことがある点だ。
住宅資金贈与の特例で非課税になる金額が、適用される消費税率によって変わるためで、税率8%が適用される時の贈与税非課税枠は一般住宅700万円、高い耐震性を持つなどの質の高い住宅1200万円であるのに対し、10%適用時はそれぞれ2500万円、3千万円に跳ね上がる。
2500万円の贈与を受けて一般住宅を購入するケースで単純計算すると、消費税が8%の時なら贈与税は約500万円だが、10%時ならゼロで済む。2500万円の住宅であれば消費税率の違いによる負担の差額は数十万円であるため、たとえ新税率が適用されたとしても贈与税の非課税のメリットの方が大きいことになる。
また、住宅ローン控除とは別にローン適用者が受給できる「すまい給付金」は、消費税率が8%の時は最大30万円だが、10%になれば50万円へと上がり、経過措置の対象とならない方が多くもらえることになる。
さらに駆け込み需要があれば物件の価格が急騰し、増税後はその反動で一気に価格が引き下がることも考えられる。経過措置は住宅取得の際の判断基準のひとつであることを踏まえて総合的に対策を練る必要がある。
特例措置の対象となる取り引きとしてはほかに、有料老人ホームへ入居する際の一時金の支払いがある。来年3月31日までに契約を締結すれば、入居一時金の額は増税後の介護サービスの分も含めて税率8%となる。また、資産のリース契約も3月31日までに締結すれば現行の税率が適用される。ただし、貸付期間とその期間の対価を決め、価格を変更しないことが条件となる。
一方、旅客運賃の前払い金や映画・演劇の前売り券の購入費用に関しては、来年の3月31日を基準とするのではなく、単純に増税前に購入したか否かで税率が決まる。購入が増税前なら利用が増税後であっても税率は8%で済む。ただし、新幹線の利用や同じイベントへの参加でも、購入日が来年10月1日以降なら10%税率の適用になってしまうので注意が必要だ。
電気、ガス、水道、電話の料金は少しだけ事情が異なる。というのも、ガス料金の検針日など支払い額の確定日は、契約内容によって変わることが考慮されているためで、税率が変わる境界線は3月31日や増税前の9月30日ではなく「10月31日」とされている。経過措置によってその日までに料金が確定するものは現行の税率が適用されることとなっている。
会社の契約に関する対策をいくつか見ていくと、住宅の建築と同様に、自社ビルの建築などの請負契約も措置の対象となる。また、コピー機の年間メンテナンス契約など「物」の引き渡しが発生しない取り引きで、支払いと役務の終了が増税日をまたぐものについても、1年分の対価を先に支払えば税率8%として計算することが可能となる。
定期券の購入に関しても、増税前に社員の定期券を一斉に買えば、増税後も現行税率の金額で利用できることになる。これらの対策につき、課税事業者であれば仕入れ分の消費税は売上分の消費税から差し引けることも踏まえ、駆け込みで契約すべきかを判断する必要がある。
家の建築工事で言えば、新居を構えるか否かの検討から始まり、住みたい家のイメージの整理、土地探し、設計・施工業者の選択、建築設計に関する話し合い、見積もりの確認などの過程が必要だ。
他の契約にしてもすぐに決まるものではない。請負工事の経過措置の適用期間が終了する3月末まで、残された時間はそれほど長くない。今のうちから全方位で様々な取り引きに関する検討を進めておきたい。
(2018/10/30更新)