東京商工会議所が中小企業を対象に実施した事業承継アンケートによると、事業を30代で引き継いだ経営者の過半数が、事業承継後に業況を好転させているという結果が明らかになった。アンケートは東京23区内の東商会員8万社(商工業者)のうち、1万社を対象に実施し、1907社から回答を得たもの。
バブル景気崩壊後の1993年以降に事業を引き継ぎ、その後に「業況が良くなった」と回答したのは、20代、40代、50代、60代では44〜47%とほぼ一定であったのに対し、30代のみ57%と突出した。一方、「業況が悪くなった」と答えた割合では、20代が最も高く23%に上った(グラフ1)。
事業承継後の動きをみると、新商品・サービスの開発に取り組んだのは、30代が34%と最も高く、20代の27%を引き離した。40代以降は年齢が上がるにつれて減少している(グラフ2)。
東商は「事業承継のタイミングとして、現経営者の年齢で判断するだけでなく、後継者候補が30代の時期に、経営の承継を検討すべき」と提言する。
また、「すでに後継者を決めている」という企業と「後継者候補はいる」という企業では、事業承継の準備や対策に大きな差が出ていることが分かった。「すでに後継者を決めている」企業は、「後継者候補はいる」企業に比べて「後継者への株式の譲渡」や「借入金・債務保証の引き継ぎ」、「自社株の評価額」などで準備・対策を行なっている割合が高くなっている。また後継者を決めていない企業では、その割合はさらに低くなっている(グラフ3)。
「すでに後継者を決めている」企業に比べ、「後継者候補はいる」企業は、後継者を誰にも周知していない割合が高く、いざ事業承継をするという段階になって後継者が難色を示すなど円滑に進まないことも考えられる(グラフ4)。自社の役員・従業員を後継者(候補)としている企業のうち、後継者を誰にも周知していない企業が、60代では3割、70歳以上では2割に上っている。
東商は「『後継者候補はいる』企業では、従業員承継を想定している企業が多く、高齢で事業承継が円滑に進まない場合は、廃業に直結する」と指摘する。
さらに深刻なのは、後継者が決まっていない企業だ。「後継者を決めていないが、事業を継続したい」企業は後継者の確保を課題と感じているが、準備・対策を行なっている企業は19%にとどまっている。また年齢が上がるにつれて、後継者の探索・確保を課題と感じている割合が高くなるが、準備・対策には変化がない(グラフ5)。
今回のアンケートによって、事業承継全体からすると非主流である「親族外承継」が年々増えてきている点は見逃せない。事業を引き継いだ時期で見ると、15年前よりも役員・従業員からの登用、社外からの登用が増加し、約4分の1を親族外承継が占めるようになっている。東商は「事業承継の対策として、引き続き割合が高い親族内承継を検討するとともに、近年増加してきている親族外承継における対策の検討も必要だ」としている。
また親族外承継の増加に伴い、M&Aによる承継が伸びてくることも予想されるが、一定以上の規模や資産価値のある中小企業では、「自社がM&Aの対象とならない」と考えているようだ。M&Aについて「よく分からない」と回答した企業は47・1%に上り、「良い手段だと思う」の39・3%を上回ったことからもM&Aが中小企業に浸透していない状況がみてとれる。
仮に後継者が決定しているとしても課題は山積している。そのひとつが自社株式評価の問題だ。「自社の株式評価をしたことがない」との回答が44・0%に及んでいる。規模の小さい企業ほど自社株式の評価をしていない割合が高く、従業員5人以下の企業では75%に達している。自社株式を評価したことがある企業のうち、約6割は資本金が「5千万円超」という結果になっている。
「納税資金の確保」に関する設問では、「対策は必要だと思っているが、特に何もしていない」が40・5%を占めている(グラフ6)。事業承継では中小企業の自社株式の評価が上昇することで、それを引き継ぐ後継者に重い相続税が課され、経営の大きな足かせになることが考えられる。アンケートでは早期の段階からの「自社株式の評価の引き下げ」や「納税資金の確保」への対策が不十分であることが浮き彫りになった。
(2018/04/06更新)