【星に願いを】(2020年7月号)


織姫は絹を織り、彦星は牛を飼う。機織りと牛飼いは古代中国では重要な産業とされていた。ある日出会った二人は会話に夢中になってしまい仕事を怠けた。これが天帝の怒りを買い、天の川の両岸に引き離されてしまう。離れ離れになった二人が再会できるのは年に一度、雨が降らなかった七夕の夜だけとなる▼中国で成立した織女牽牛伝説。この七夕伝説から読み取れる教訓は「仕事を怠るな」ということだろう。だから七夕の願い事も、もともとは「裁縫が上達しますように」だけだったという。技術力の向上、つまり仕事のスキルアップを願うだけだから、「お金持ちになれますように」「結婚できますように」などというお願いは本来、筋違いなのだ▼日本に伝わったのは奈良時代。ロマンチストな万葉人は七夕の悲恋に同情し、織姫と彦星のために多くの和歌を詠んだ。これによって日本では、七夕に恋愛成就を願うようにもなった▼大手出版社のエントランスには早くも大きな笹が置かれ、色とりどりの短冊が吊るされていた。その中の1枚には「原稿が早く届きますように」とあって思わず吹き出してしまった。「コロナウイルスが消えてなくなりますように」と書かれたものもある。七夕、せめて晴れてほしいと、星に願いをかけてみる。