1854年、クリミア戦争に看護婦として従軍し、その献身的な働きぶりから「クリミアの天使」と称されたフローレンス・ナイチンゲール。看護婦を「白衣の天使」と呼ぶようになったのは、彼女に由来してのことだ。しかし本人はそのように呼ばれることを喜んでいなかったようで、のちに「天使とは、美しい花をまき散らす者でなく、苦悩する者のために戦う者である」と語っている▼世界保健機関(WHO)は昨年5月、国際看護師協会からの提案を採択し、ナイチンゲールの生誕200年にあたる2020年を「国際看護師・助産師年」と定めた。WHOでは、高齢者や母子のケアに欠かせない看護師・助産師を2030年までに9百万人増やす目標を掲げている▼看護職員の人員数が充足するのは結構だが、問題はその待遇や労働環境だ。ナイチンゲールは「犠牲なき献身こそ真の奉仕」と説き、ボランティアによって常時組織される看護団体の設立には断固として反対。「看護する人の自己犠牲のみに頼る活動は決して長続きしない」と看破した▼そして「看護する人の奉仕精神にも頼るが、経済的援助なしにはそれも無力である」と現実を語っている。〝税金は看護を支えるために使われているか?〞。地域医療の担い手不足に直面する日本にとって重要な視点だ。