【キャリー・バンクス・マリス】(2020年8月号)


「筋肉が萎縮し死に至ってしまうような遺伝子異常を解読して、悲劇を回避させたい」。昨年8月に74歳で死去した米国の分子生物学者、キャリー・バンクス・マリス博士はこの思いを実現するため「ポリメラーゼ連鎖反応法」を開発。その功績で1993年のノーベル化学賞を受賞した▼博士は有名大学や研究機関とは縁遠い人物だった。まともな学術論文も数えるほどしか書いておらず「ひらめきだけでノーベル賞をとった」などと揶揄された。サーフィンが好きで、ノーベル賞の受賞が決まった際にも海に出ていたため「サーファーにノーベル賞」と大きく報じられた。過去にLSDやマリファナを使用していたことを公言。そのため自分はノーベル賞には縁がないと思い込んでいたという。4度の結婚を経験し3人の子どもがいる▼ポリメラーゼ連鎖反応法。略称はPCR法。新型コロナウイルスの感染の有無を調べる検査方法として、その名が浸透した「PCR検査」。わずかなDNAを増幅させ、遺伝子情報を大量にコピーして分析可能とする技術は、感染の判定で最も重要な役割を担っている▼博士は93年に日本国際賞も受賞している。授与式には天皇・皇后と三権の長が出席する。高い評価の割には、検査数が少ないように思える。