プロ野球の契約更改での一コマ。シーズン中、監督のサインに従って「送りバント」をたくさん決めてきた新人選手が球団幹部からこう言われたとする。「君は犠打ばかりで、ヒットも打点も少ないね。これでは年俸を上げられないよ」▼監督命令は絶対だ。その監督から「送りバントを決めろ」と命じられ、成功させてきた。「なぜ、それを評価してくれないのですか」。新人選手が反論すると、球団幹部はこう答えた。「君がヒットやホームランを打てるバッターならば、バントのサインなど出さなかったと監督が言っている」▼会社でもよく目にする光景ではないだろうか。部長や課長の指示通りに動いた社員が、まったく評価されない。営業や生産の現場では、計画を達成するための戦術をマネージャーが考え、部下に指示する。野球監督が作戦を立て、選手に実行させるのと同じことだ。会社でも野球でも、その命令通りに任務を遂行した部下や選手には、何の落ち度もないはずだ▼部長さんも監督さんも、数字に責任を負うのは当然のこと。部下の成績が上がるように、的確な指示を出さなければ意味がない。部下の成果につながらない「無駄な努力」を強いては本末転倒だ▼社長さんは、「負け」の理由が本当に若手の実力不足にあるのか、それともマネージャーの作戦が間違っているのか、よく見極めたい。