「新しき年のはじめの初春の今日降る雪のいや重け吉事」。昨年1月の本稿では、大伴家持が『万葉集』の巻末に置いたこの歌(巻二十・四五一六)を取り上げた。初春に降る雪のごとく、良いことが積み重なっていくようにと願ったもの▼それから4百年以上の時を経て鎌倉時代初期に編まれた『新古今和歌集』の巻頭にも、新春を寿ぐ歌が置かれている▼「み吉野は山も霞て白雪のふりにし里に春は来にけり」(藤原良経)がそれ。「春」は空から徐々に「下りてくる」ものであって、春の最初の姿は吉野の山々にかかる霞だとする和歌的発想だ▼首相がアベノミクスで繰り返し唱えるトリクルダウンも、和歌的発想に思えてならない。富は「上から下へと徐々に流れ落ちてくる」ものだとこの理論は主張する。景気回復は大手から先に実感できるようになり、賃金も大企業の社員から順に上昇する、と▼山に霞がかかる兆しすら見えてこない社長さんとしては、トリクルダウンによって「春」が下りてくるなどといわれても、にわかには信じられない。ついつい「門松は冥土の途の一里塚目出たくもあり目出たくもなし」(一休禅師)という気分にもなってしまうだろう▼そうはいっても新年のスタートだ。気分だけでも「何となく、今年はよい事あるごとし。元日の朝、晴れて風無し」(石川啄木)といきたい。