「四月は残酷極まる月だ」。1948年にノーベル文学賞を受賞したイギリスの詩人、T・S・エリオットの代表作『荒地』は、この書き出しではじまる長編詩。第一次世界大戦後の荒廃した世界の姿を、さまざまな生命が芽吹きはじめる春の季節に重ねて表現した▼昭和の詩人で英文学者、西脇順三郎の訳はこうだ。「四月は残酷極まる月だ/リラの花を死んだ土から生み出し/追憶に欲情をかきまぜたり/春の雨で鈍重な草根をふるい起こすのだ」(『世界詩人全集16エリオット詩集』新潮社)▼大戦が終結した喜びは春の訪れのようだが、戦後復興への道のりは絶望的なまでに過酷だ。それなのに「四月」は、再生への希望を否応なしに抱かせるのだから「残酷」だ、と▼14世紀のイングランドの詩人、G・チョーサーの最高傑作『カンタベリー物語』では、その冒頭で「四月」を恵みの季節として描いている。エリオットがチョーサーを意識して、まったく正反対の「四月」から書き出したのだと解釈する研究者も多い▼新入社員、新年度。4月は新しい可能性と希望に満ちた月であってほしいものだが、国会ではまたもや閣僚や野党党首らの政治資金をめぐる問題が表面化した▼こんなことで新年度予算案の審議が停滞し、震災復興や経済再生にも遅れが生じるのだから、なんとも「残酷」な現実だ。