「ひとりの友の友となるという大きな成功を勝ち取った者 心優しき妻を得た者は彼の歓声に声を合わせよ」。ドイツの詩人、シラーの『歓喜に寄す』の一節。ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章で歌われる『歓喜の歌』は、シラーの愛読者だった作曲家が原作を3分の1ほどの長さに翻案・改稿したもので、冒頭にバリトン歌手が歌う「おお友よ、このような音ではなく…」の部分はベートーヴェン自身が作詞した▼スペイン風邪が大流行した1918年。11月11日に第一次世界大戦が終結。大晦日にはドイツのライプツィヒで平和を願う100人の演奏家と300人の歌手によって演奏会が開かれた。それ以降、新年への願いを込めた欧州の人々によって、年末には『第九』が演奏され『歓喜』が歌われるようになった▼日本では1940年の大晦日に新交響楽団(現在のNHK交響楽団)が演奏しラジオで生放送した。戦後はオーケストラの収入が激減したため楽団員の生活は困窮。必ず客が入り、合唱団を含めて参加できる人数も多い『第九』は、演奏家たちが越年資金を稼ぐにはもってこいの曲だった▼新型コロナの感染拡大によって今年は演奏会もままならない。ならば、せめて地方の交響楽団を応援しようと、ふるさと納税で寄付してみた。来年は世界中で『歓喜』の歌声を聴きたいと、願いを込めて。