元禄時代の「生類憐みの令」が悪法だったからといって、五代将軍徳川綱吉の責任を追及しているわけではない。原告の女性は戦後の昭和23(1948)年に施行された「旧優生保護法」のことを問題にしているだけだ▼知的障害を理由に不妊手術を強制された女性が国に損害賠償を求める訴訟を起こした。新憲法下、重大な人権侵害であるにもかかわらず、長年にわたって立法による救済措置を怠った国の責任を問うものだ。原告は「旧法は憲法違反」であると主張する▼「悪法もまた法なり」は官僚の決まり文句。たしかに役人の自由裁量で行政が執行されてしまってはならない。行政が法を順守してこその法治国家だ▼しかし、法をつくる立法府までもが「悪法もまた法なり」と開き直っていいはずはない。「当時は適法だった」。なるほど、百歩譲ってそこまではいいとしても、「だが、誤った法律だった」と認める勇気も必要ではないのか▼税金ではどうか。税制は毎年〝改正〞される。つまり税法の多くの箇所が毎年書き換えられ、時代に則したものになっているわけだ▼徴税のためになら、都合よく何度も法を見直すというのに、国民の人権を回復するための立法措置を怠るとはどういった料簡なのだろうか▼この裁判が、犬公方も驚くような判決を連発する最高裁にまで長引かずに決着することを祈りたい。