たとえばの話。全国に工場を持つ火薬メーカーがあったとする。そのひとつで爆発事故が起き、周辺の住民に多数の死傷者が出てしまう。当然、安全性が確認されるまでは、全国のほかの工場も操業停止を余儀なくされるだろう▼火薬メーカーはこう主張する。「被害者のみなさんへ補償するために、火薬を売らなければなりません」。しかもローコストで大量に生産しなければ「他社との競合に勝てません」。だから「操業を再開させてください」と▼東京電力が、これとまったく同じ論法で柏崎刈羽原発の運転再開許可を国に求めている。重大な事故を起こしてしまった企業や経営破綻寸前の企業の側が「このままでは倒産してお金が返せないぞ」「倒産したら被害者に補償できないぞ」などといって国に税金での救済を求める図式。破滅や混乱をちらつかせるこうした手法は「弱者の脅迫」というものだ▼東電の再建計画では、収益強化策の柱に「他電力管内での電力小売事業(全国販売)」が据えられている。姑息にも新ブランドまで立ち上げて、イメージの悪い「東電」の社名を隠し「全国で一定のシェアを確保」する計画だとしている▼「弱者の脅迫」に屈して原発を再稼働させるようなことがあってはなるまい。東電は「弱者」ではない。救済するべきは「弱者」の立場に置かれてしまっている被害者のほうであって、それには直接的に税金を投入していくことも必要だろう。