【六尺之孤】(2016年2月号)


20篇、512の短文で構成されている『論語』。「泰伯」は、その第八篇にあたる。そこに「可以託六尺之孤」とある(泰伯第八・6)。書き下すと「()って六尺(りくせき)()(たく)()し」現代風に訓み下すと「幼い孤児を託すことができる」といった意味だろう▼「六尺」は15歳以下のこと。周代の1尺は21・5㎝だったというから、6尺は約130㎝ということになる。身長でおおよその年齢を示していたわけだ。「六尺之孤」には、父王が他界したために幼少の身で即位した君主、という意味もある▼「曾子曰。可以託六尺之孤。可以寄百里之命。臨大節而不可奪也。君子人與。君子人也。」が「泰伯第八・6」の全文。いかにも『論語』らしい短文だ。小説『次郎物語』の著者、下村湖人は「曾先生がいわれた。安んじて幼君の補佐を頼み、国政を任せることができ、重大事に臨んで断じて節操をまげない人、このような人を君子人というのであろうか。まさにこのような人をこそ君子人というべきであろう」と訳している(『現代訳論語』)▼『タックス・オブザーバー』(エヌピー新書)の著者で弁護士の志賀櫻さんが亡くなった。66歳だった。残念ながら本書が遺作となってしまった。故人にとって、本書はまさに「六尺之孤」。君子人には程遠い身ではあるが、託された良書を大事に育てていきたい。