「なし崩し」という言葉は誤用されることが多い。物事をズルズルと曖昧にする、適当にする、うやむやにする、といったニュアンスで使われることが多いが、本来は「物事を少しずつ済ませていく」といった意味の言葉だ▼「済し崩し」と漢字で書くとわかりやすい。もともとは借りたお金を徐々に支払っていく様を表した言葉だという。転じて、物事を少しずつ済ませていく意味で使われるようになった。曖昧なままダラダラと物事が終わらないのではなく、少しずつであっても最終的には「済んでいく」のだから地道で堅実な意味にとれなくもない▼事業計画や商品企画が「なし崩しに変更される」のはネガティブなイメージだが、本来の意味からいえば、「少しずつ修正を加えていく」といった表現になる。会議の都度、方針がブレて大きな変更を繰り返すよりも、「なし崩し」に変更されていくほうが現実的だといえるだろう▼「マイナンバーカードがなければ、カジノに入場できない」。ギャンブル依存症対策として、政府の有識者会議が提案している。マイナンバー法ができた当初の利用範囲は社会保障、税、災害対策の三分野に限定されていたはずだが、政府は銀行口座や戸籍にまで紐づけようとしている▼どうやら政府は、言葉本来の意味でも、利用範囲の拡大を「なし崩し」に進めていくつもりのようだ。