社屋が雨漏りしてしまったので、改修工事をすることにした。雨漏りという被害に対する処置なので、その費用は「修繕費」として全額をその年の経費にできるだろう――。
この認識は原則的には間違ってはいないが、例外がある。納税者と課税当局の間で最も争いになりやすいテーマの一つである「修繕費」と「資本的支出」について、しっかり違いを把握しておこう。
国税庁は、修繕費を「資産の維持管理や原状回復のために要した」費用、一方の資本的支出は「使用可能期間を延長させ、価値を増加させる」費用とそれぞれ定義付け、一つの工事のなかに両者が混在することもあり得るとしている。
またそれぞれの具体例として、修繕費なら、建物の塗装部分の塗り直し、損壊部分の補修、機械装置の移設、地盤沈下などによる土盛り、ソフトウエアのバグの除去などを挙げ、資本的支出には建物への避難階段の取り付け、用途変更のための改装、性能をアップさせる機械部品の取り替え、ソフトウエアの新機能追加などを挙げている。
つまり、材料や材質などを含めて取得当時の状態に戻す原状回復は修繕費で、現在の建物や機械を取得当時よりもバージョンアップさせることは資本的支出ということだ。ただし実務上では両者の判別が明らかでない場合も多く、こうしたケースではいくつかの形式基準によって両者を区別することになるが、それでも判別がつかないときには、原則である「使用期間の延長や価値の向上があるか」という実質基準に立ち戻っての判定が行われる。
2001年にあった事例では、自社が所有する3つの建物について、それぞれ雨漏りが絶えなかったため、屋根に全面的な水漏れ補修工事を行ったところ、その費用について課税庁と主張が対立した。最終的に国税不服審判所が下した裁決は、1つの建物についてのみ資本的支出とし、残り2つの建物については修繕費として計上することを認めるというもの。
その違いはどこにあったかというと建物の構造だ。修繕費が認められた2つの建物はいわゆる「陸屋根」であり、傾斜がない平面の屋根だった。一方、残る1つは傾斜のある屋根だった。審判所はこれらの事情をもって、「陸屋根は雨漏りの経路を特定しづらいため、屋根全体について補修工事を行うことが応急措置として一番安価だった」とする一方、「傾斜のある屋根に対しては雨漏り箇所に個別対応することが可能だったにもかかわらず、全体を工事したのは資本的支出に当たる」と判断したわけだ。
この建物は20カ所以上が雨漏りをしていたにもかかわらず、1カ所1カ所それぞれを部分的に補修しなければ修繕と認めないというのだから、納税者にとってはかなり厳しい。裁決から得られる教訓は、価値の向上があったとしても、それが機能回復するためのやむを得ない合理的な選択であったか、最も安い方法を選んだ結果だったか、ということだ。それが安価かつ合理的なたった一つの方法であったかどうか、それこそが「修繕費」と認められるための要素だということになる。(2018/03/27)