賃貸アパートを修理したときなど、かかった金額が費用として認められる「修繕費」なのか、認められずに資産価値を高めただけとされる「資本的支出」なのかの判断は常に迷うところだ。
ここでは国税不服審判所の裁決例を挙げて留意点を見てみたい。
税務調査で、修理が「修繕費である」ということを認めさせるには、まずは工事内容を明確にすることが大前提となる。コンクリートの下地工事が争点となった2004年の裁決では、納税者が「機械取り替えに伴う工事概略図」と「作業日報」の写しを添付した「工事施工内容確認書」を提出して修繕費であると主張したところ、「損金の額に算入するのが相当」と主張が認められた。
ポイントとなったのは、施工内容が分かる書面の存在だ。もしも詳細な内容が記載されていない「〇〇工事一式」といった書面であったなら、納税者の主張は通らなかった可能性が高い。つまり、極論すれば明細を出す工事業者かどうかがカギで、工事発注の時点で勝負は決まっていたということになる。
建物の「出入口の工事」と「照明の取り換え」、そして「地盤沈下による水漏れを止める工事」の3点が争われた2010年の事例では、「出入口」と「照明」の工事が資本的支出とされたが、水漏れ工事は修繕費と認められた。ポイントとなったのは、やはり詳細な証拠資料の提示があったことに加えて、工事担当者が維持管理のための工事であるとする施工内容を具体的に示したことにあった。プロの援護射撃が効いた一例だ。
三つめはポンプの漏えい対策として設置した「メカニカルシール」という部品への支出をめぐる2002年の事例。税務当局は、機材が特殊なものであることを理由に、固定資産の価値を高める資本的支出であると主張したが、審判所は「あくまでもガスの安全性を回復する修繕費」とした。どれほど特殊なものであっても、きちんと説明ができれば資本的支出にされるのではないことを示したケースだ。(2018/10/17)