遺産分割協議が終わるまでの相続財産は、原則として「相続人らが共有する」状態になる。これを民法では「準共有」という。分割協議がスムーズに終わればよいが、相続人のあいだで同意が得られないなどの理由で協議が終わらないと、いつまで経っても全員で相続財産を準共有している状態となってしまう。
この準共有が大きなトラブルの種になるのが、事業承継に当たっての自社株の引き継ぎだ。例えば死亡した先代社長が900株を持っていたとする。相続人が3人の子だけだとすると、遺言がなければ900株は3人の準共有状態となる。準共有なので、遺産分割協議が終わるまでのあいだ、900株は「法定相続分に沿ってそれぞれが300株ずつ持ち合う」のではなく、「1株1株が3人の共有」状態となる。
共有となった株式の議決権は、「その権利行使の決定方法を、過半数をもってこれを決する」と規定されている。つまり後継者以外の複数の相続人が協力すれば、遺産分割が整うまでのあいだ「全株式の過半数」を得て、全議決権を持つこともあり得るのだ。実際に過去には、遺言を残さずに先代社長が死亡してしまったため、後継者ではない二男と三男が結託して全株式の議決権をネタに長男を脅すという事例が起きたこともある。
このケースでは、長男が議決権を得る引き換えとして、二人に法定相続分を大幅に超える相続財産を譲らざるを得なかったという。こうした事態を避けるためには、先代が遺言を残しておくべきだ。また、遺留分を考慮に入れた遺産分割を遺言で指示しておけば、トラブルは大きくならなかったはずだ。さらに言えば、そもそも生前のうちに後継者へ自社株式を譲っておけば、自社株の散逸リスクは防止できただろう。
2018年度税制改正では事業承継税制が大幅に拡充され、後継者への自社株引き継ぎが過去に比べて格段に容易になっている。同税制を活用することで、贈与税や相続税の負担を負うことなく事業承継を進めることが可能だ。(2020/11/11)