同族会社のオーナーならば、相続財産のうち自社の株式の評価額がかなりの部分を占めることになるだろう。そのため自社株の評価がどのように決定され、どういったときに増減するのかは重要な関心事となるはずだ。
未上場の株式のことを相続税では「取引相場のない株式」というが、これは基本的に純資産価額方式と類似業種比準方式によって評価される。
純資産価額方式とは、会社の純資産の価額をベースに評価する方法で、仮に会社を清算したとして手元に残る金額で評価する。つまり、内部留保が多い会社の評価が高くなる傾向にある。
一方の類似業種比準方式とは、その会社と類似の業種の上場会社の平均株価をもとに、配当金額、利益金額、純資産価額の3つの要素から、どれぐらい高いか低いかを比べ、そしておおむね7掛けで評価していく。そして評価会社と上場会社それぞれ一株50円あたりの出資に対する配当金額、利益金額、純資産価額を比べていく。重要なことは、会社の規模が大きくなればなるほど類似業種比準方式による評価の影響を大きく受け、小会社であっても50%は類似業種比準方式による評価の影響を受けるということだ。
つまり、同族会社の事業承継は、業績が悪く赤字となった事業年度は利益金額がマイナスとなり、類似業種比準方式による評価が比較的低くなるため、このタイミングが株式を後継者に贈与もしくは売却する絶好の機会ともなる。まさにピンチをチャンスにする経営判断だ。
類似業種比準方式による評価が高くなる好業績の時期には株式の承継をする場合には、様々な節税策を駆使することになる。最もポピュラーなものが、持株会社体制を採用するスキームだろう。まず、業績が良く株価が高いときに親会社を設立し、オーナーの相続財産でる自社株を移す。そうすることで元の会社(事業会社)の株式は親会社が保有する資産の一部に過ぎなくなるため、元の会社の株価が高いとしても、親会社の株価を低く抑えることが可能となる。
親会社の株価を下げるには、資産構成や利益計画などいくつか注意が必要な点もあるが、節税面での効果は大きい。もちろん、単に株価を下げるための調整であると税務調査で判断されれば、否認される可能性も低くはない。親会社の設立などは、調査官が納得する合理的な理由を十分に検討した上で取り組むようにしたい。(2018/12/20)