海外取引を利用した企業の節税策への監視は強まるばかりだが、取り締まられるのはあくまで「税逃れ」であり「節税」ではない。税法に従い、そこに経済合理性がある限り、たとえ結果的に税額を大きく減らすことになったとしても否認されるいわれはない。
タックスヘイブン(租税回避地)を利用した企業の節税策の代表的なものといえば、法人税率が低い国などに子会社を設立する手法がある。このケースでの「税逃れ」を防止する仕組みのひとつとして、その子会社に事業の実体がない場合、親会社の所得として法人税を課す「タックスヘイブン対策税制」がある。
この税制をめぐって企業と国税が争った裁判で昨年、企業側の主張を全面的に認め、数十億円の課税処分のすべてを取り消す判決が下りた。訴えたのは自動車部品大手のデンソーで、裁判では同社のシンガポール子会社がタックスヘイブン対策税制に当てはまるかが争われた。
子会社が設立された目的は、アジアに点在する支社などの地域統括業務、業務用プログラムの設計業務、そして他の支社の持株会社としての役割だった。現地事務所の職員30人のうち大半がプログラム設計業務に従事し、事務所の備品や車両のほとんどが人事や企画といった地域統括業務に使われていた。子会社の収入の85%が物流改善業務によるものだったという。
裁判では、タックスヘイブン対策税制に設けられている適用除外要件の趣旨が注目された。裁判所は、「節税目的であっても、その国で事業を行う経済合理性がある時にまで税制を適用すると、経済活動を阻害してしまう」ことが適用除外要件の存在する理由であるとし、デンソーの子会社についても「たとえ株式の配当による所得が大きいとしても、それ以外の事業が実際に行われ、相応の経営資源が投入されているなら、除外要件を満たすと認めるのが税制の制度趣旨に適っている」と判断した。
結果的に節税効果が大きくても、それのみを理由としてタックスヘイブン対策税制が適用されるべきではないと裁判所は結論付けたわけだ。この判決のポイントは、タックスヘイブン対策税制を免れるポイントが、「その国で事業を行う経済合理性があるか」の一点に集約されるという点だろう。低税率の恩恵を受けることが目的であるかどうかは一切関係ないわけだ。
今後、海外への進出を考えている、あるいは海外の低税率にあやかりたいと思う企業にとって大きなヒントとなるのではないだろうか。(2018/11/16)