多くの中小企業では、定款で株式の譲渡制限を定めていて、会社の承認なく株式が売却されたり想定しない株主が登場したりすることはない。しかし例外もあり、相続による株式の移転には譲渡制限の効力は及ばない。そのため、自社株が分散している状態を相続まで放置していると、予想外の範囲にまで自社株が分散し、会社運営上の障害になってしまう。
株主が兄弟などであれば本人同士の交わりがあるが、放置するうちに本人が亡くなると叔父と甥の関係になり、やがて従兄弟の関係になり、将来的にはまったく交流のない人が株主総会に登場する可能性もゼロではない。
譲渡制限株式が相続に対しては効力を発揮しないという問題に対しては、会社法で定められた「株式売渡請求制度」を利用するという手がある。これは相続や合併などによって譲渡制限株式を取得したひとに対して、会社が株式を強制的に買い取ることができる制度だ。
ただし相続人に対して売り渡しを請求できるとする定款を置く必要があり、定款を変更するためには株主総会の特別決議がいる。後手に回ってしまっては株主総会で同意を得ることもできなくなってしまうので、気心の知れた兄弟などがいるうちに定款の変更だけでも済ませておかなければならない。
また強制的に買い取ることができるのは、あくまで会社が分配可能な金額の範囲に限られるため、買い取り資金を用意しておくことも必要となる。例えば資本金や資本準備金を取り崩して資本剰余金としたり、含み益のある資産を売却したり、経営者からの借入金を債務免除することで利益を計上したりという方法が考えられる。
そのほか、社長が全株式の9割以上を保有する「特別支配株主」であれば、会社法179条の特別支配株主による株式等売渡請求の制度を利用して、株式を買い取ってしまうことも可能だ。ただしどの手法を使うにしても綿密な計画と準備期間が必要となるため、できるだけ早い時期から対策に取り掛からないと間に合わないという点では同じだ。
「そのうちきちんとしなければ」と思っているまま時が経過するほど、散逸した自社株がトラブルに発展するリスクが高まる。自社株の分散を放置しているなら、一刻も早く整理と集約を行うことをお勧めする。(2020/02/07)