サラリーマンの必要経費を所得から差し引ける「特定支出控除」。日本に6千万人いるとされるサラリーマンのうち利用しているのはわずか1500人ほどだ。
特定支出控除とは、サラリーマンが一定目的の支出を給与所得控除に追加するかたちで所得から控除できる制度のこと。対象となるのは通勤費、転勤に伴う引っ越し代、職務に必要な技術や知識を得るために受ける研修費、職務に必要な資格取得費、単身赴任者が勤務地と自宅を行き来するための交通費など。
1988年に創設されたが、要件の厳しさや対象となる費用の少なさから、導入当初は年間の利用者が10人にも満たないという不人気ぶりだった。しかし幾度かの改正を経て、2013年には職務に関係する本の購入費、職場で着用する必要がある衣服代、業務上必要となる交際費や接待費などが加えられた。
また弁護士、公認会計士、税理士の資格が控除の対象となる資格取得費に追加されたことで、利用者は徐々にではあるが増えつつある。18年度改正では、控除対象となる費用のうち、単身赴任者の帰宅旅費について、①これまで1カ月に4往復までとされていた上限が撤廃され、②帰宅に自動車を使った際の燃料費と有料道路の料金を加える――という見直しがなされた。
①については、毎週末の休日に加えて週の半ばに連休があった時などに、その際の帰宅についても特定支出控除の対象に含めるといった効果が期待される。特に大きな改正は②で、これまで単身赴任者が特定支出控除を使って帰省する際には、飛行機や電車など必ず公共交通機関を使う必要があった。これについては過去に、高速道路の通行料金やガソリン代を特定支出に計上した納税者が税務署に否認され、国税不服審判所に駆け込んだ結果、納税者が負けるという事例も起きている。
特定支出控除の利用者が少ない理由の一つだったが、この点がようやく改善されたわけだ。とはいえ、普通であれば単身赴任者の一定回数の帰省については、会社が負担しているもの。会社負担分は当然特定支出には当たらない。控除を適用するためのハードルである特定支出の額、「給与所得控除額の2分の1超」――となることは、なかなか考えにくいかもしれない。
さらに特定支出控除を利用するためには職務に必要な支出であることを証明しなければならず、すべての支出について給与の支払元である会社が発行する「職務に必要な支出である」という書類が必要となる。やはり特定支出控除は使いづらいと言わざるを得ない。(2018/05/15)