相続では、すべての相続人が集まって残された財産について話し合い、全員が納得のいくかたちで公平に分割されるのが理想だが、遺産分割協議は往々にして難航するものだ。
相続の手続きを円滑に進めるために、生前贈与や遺贈を受けていた相続人が「特別受益証明書」を作成するケースがある。特別受益証明書を作成できるのは、相続人の中でも「特別受益」がある人、つまり「特別受益者」に当たる人だけだ。
民法903条では、相続人のうち被相続人から遺贈(遺言による贈与)を受けた者および婚姻・養子縁組・生計の資本として生前贈与を受けた者を「特別受益者」と定義している。特別受益者は、特別に受けた利益分(特別受益分)を相続財産にいったん戻したうえで、法定相続分を計算する。
つまり、特別受益者は計算された自らの相続分から特別受益の金額を引いた分だけを受け取ることになる。特別受益が法定相続分以上となれば、特別受益者は相続財産から実際に受け取ることのできる相続分がないということになる。
また、被相続人が残した借金については他の相続人と同様に法定相続分に従って分割承継される。そのため特別受益証明書を作成しても債権者から返済を求められれば応じなくてはならない。なお、協議で債務の負担割合を決めることは可能だが、これはあくまでも相続人の間での合意にすぎないため、仮に「負債分はゼロ」と兄弟間で決めていても、債権者には通らない。債務を放棄するのであれば、別途相続放棄などの手続きが必要になるので注意したい。(2020/11/20)