会社の規模によって「大企業と中小企業」と分けるやり方は、官民を問わず様々な場面で用いられるが、その具体的な境界線となると一言で説明できるものではない。というのも、「中小企業」の定義は法律によって何種類もあるからだ。
例えば、中小企業に対する施策の基本理念を定めた中小企業基本法では、中小企業にあてはまる条件を、①製造業その他で、資本金3億円以下または従業員300人以下、②卸売業で資本金1億円以下または従業員100人以下、③サービス業で資本金5千万円以下または従業員100人以下、④小売業で資本金5千万円以下または従業員50人以下――と定めている。
これによると、国内の420万社のうち99・7%ほどが中小企業に当たる。中小企業庁が年に一度まとめる「中小企業白書」で扱われる中小企業も、同法を根拠としている。また会社法では、「資本金5億円以上または負債総額200億円以上」を大会社として定義している。これに当てはまらない会社は中小企業として扱われ、会計監査人の設置義務などを免除されることになる。民間アンケートなどでは東証一部上場企業のみを「大企業」と表現することもある。
会社経営をするにあたって「中小企業」という言葉を使う場合、もっとも多く用いられるのは法人税法上の定義だろう。法人税法の租税特別措置法では、「大規模法人の支配下にない資本金1億円以下の企業」を中小企業と定めている。法人税の軽減税率や外形標準課税の課税範囲、少額減価償却資産の損金算入の特例など、中小企業に認められる税制面でのさまざまな措置は、ほとんどすべてが「資本金1億円以下」という法人税の中小企業の基準で判断されている。中小企業の定義を問われて「資本金1億円以下」と考える人が多いのはそのためだ。
ただし、この「資本金1億円以下」が中小企業の定義として妥当か疑問視する声も多い。資本金額は会社が任意に調整することができるため、実質的には大企業並みの資本や従業員数を抱える会社でも、「名ばかり中小企業」となって税優遇を受けることができるためだ。過去には、電機大手のシャープが税優遇を目的に資本金をそれまでの1200億円超から1億円に減資しようとして、批判を受けて撤回したこともある。
日本税理士会連合会は、資本金のみで判断する現在の基準を「活動実態を的確に反映しているとはいえない」と批判し、資本金基準に加えて「従業員数1000人以下」を新たな条件に加えてはどうかと提案している。なお最新の2019年度税制改正では、税法上の中小企業の定義について、資本金や出資金が5憶円以上などの条件を満たす大法人の100%子会社の企業、グループ内の複数の大法人に発行済株式数や出資の全部を保有されている企業は、法人税法上の大企業とみなすよう改められている。(2019/04/08)