役員報酬を年度途中で改定すると、それ以降の分は原則的に損金に含められない。自由に役員報酬を変動させられると利益調整が可能になってしまうため、年度途中での報酬改定には厳格な要件が定められているからだ。
役員報酬を改定しても損金算入を認められる数少ない例外のひとつが、経営状態の著しい悪化などやむを得ない理由がある場合に報酬を減額する「業績悪化事由」だ。会社を立て直すために報酬減額が避けられないと客観的に判断できれば、改定後の給与も損金に算入できる。
業績悪化事由が認められるケースとして国税庁は、①株主との関係上、業績悪化について経営上の責任を問われて減額した場合、②取引銀行との借入金返済のリスケ協議で減額を要請された場合、③取引先等の信用確保のため経営改善計画を策定し、そのなかに役員給与減額が盛り込まれた場合――などのケースを例示している。
これらは主に自社の経営に責任があって業績が悪化したことを想定しているが、現実には自社に責任がなくても業績悪化の波に飲み込まれることもある。例えば大口の取引先が不渡り手形を出したケースなどがそれで、主要な得意先の経営悪化によって自社の経営が今後著しく悪化することが避けられない場合も、役員報酬を減額する「やむを得ない理由」に該当するという。
また現状では自社に被害が及んでいなくても、得意先が他社に不渡りを出していて、数カ月後には自社との取り引きにも波及することが確実であれば、先手を打っての報酬減額も業績悪化事由として認められている。
ほかには、主力商品に不具合が発生して今後多額の損害賠償金の支払いやリコールが避けられない事態になった場合も、同様に業績悪化の理由として認められるようだ。
だが実際には、業績悪化を理由とした役員報酬の改定は難しいかもしれない。当局は、「法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかった」というくらいでは、業績悪化に該当しないと通達で規定している。過去には、経常利益が前年比6%減少したことを理由に役員報酬を減額した会社が、国税不服審判所で「業績悪化に当たらない」と裁定されたケースもある。(2018/06/11)