経営者が死亡して相続が発生したときに、後継者以外の相続人が自社株を受け取り、後継者が経営上の意思決定をするために必要な株式数を受け継げないことがある。相続前の対策として後継者が経営者から生前贈与を受けていたとしても、その贈与分は相続人の最低限の相続分として保障された「遺留分」の対象財産になるため、ほかの相続人から遺留分の取り戻し請求を受けかねない。
こうした自社株分散リスクを防ぐため、3年以上事業を継続している中小企業の後継者は、生前贈与された自社株を遺留分の対象財産から外す制度を利用できる。
遺留分は、配偶者、子、父母などそれぞれの立場ごとに割合が決められている。この対象財産には、被相続人の死亡時の財産だけでなく、相続開始時点の1年以内に贈与された財産も含まれる。また、自社株は一般的に贈与の時期にかかわらず対象財産になり、贈与されていた後継者は多くの財産を受け取ったと法律上判断される。
しかし、経営者が後継者に自社株を贈与したときに、自社株を遺留分から外す合意を「推定相続人」全員で取り交わし、経済産業大臣と家庭裁判所に届け出ると、相続人はその分の遺留分請求ができなくなる。この制度は、保有株式と贈与株式を合わせて議決権の半分以上確保できる贈与をしたときに利用できる。
なお、贈与を受けた自社株の価値が相続時までに上昇して財産評価額が高まると、その分だけ財産を多く受け取ったことになり、遺留分をほかの相続人から請求されるリスクが高まる。このような予想外の財産評価上昇リスクを抑えるため、遺留分対象財産である自社株の評価額を贈与時の価格で固定できる制度もある。(2017/01/21)