小銭だけで税金を納めることは可能だろうか。日本銀行法第46条2項では、1000円札以上の「紙幣」については「無制限に通用する」と規定されているものの、500円玉以下の硬貨については「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」の第7条で、あまりに多くの数が使用されると保管や計算に手間を要して不便であるとして、「額面価格の20倍まで」を限度と規定している。
それに従えば10円玉なら200円、500円玉でも1万円までが小銭で納税できる限度ということになる。ただし同法で規定されているのは、あくまで20倍を超える支払いについては、受け取る側が拒否できるということだけ。
財務省のホームページでは「取引の相手方の了解が得られるならば、それを定めるものではない」と説明されているので、どうしても硬貨で払わねばならない理由があり、それを相手に納得させることができれば、税務署に大量の硬貨を持ち込むことは法的に不可能ではない。
ちなみに「額面価格の20倍」というのはあくまで日本の法律であり、海外では限度を定めていない国もある。例えばアメリカは、硬貨もすべて租税公課のための法定通貨であると定められていて、巨額の税金を硬貨のみで支払うことは法律上不可能ではない。
現実には、そんな手間をかけてまでお役所への〝嫌がらせ〞をする人はなかなかいないと思いきや、2016年に本当に小銭のみ「30万枚」で納税した男性が現れている。
バージニア州に住む男性は、新たに購入した自家用車にかけられた税額3千ドルを、すべて「硬貨」で支払った。陸運局に運び込まれた小銭は29万8745枚で、職員はそれを数えるのに翌日の朝までかかったという。重さ702キロにも及ぶ小銭を納税するのにかかった費用は、人件費が時給10ドル×11人分、5台の手押し車400ドル、その他の経費に440ドルほど。つまり約34万円の税金を納めるために、男性は約11万5千円をかけたことになる。
この男性は新車を購入した際、複数の郡にまたがって4つの家を所有していたため、車両をどの地域で登録して税金を納めればいいのか迷った。そこでコールセンターに電話をかけて陸運局につないでもらおうとしたところ、1時間経ってもつながらなかったという。男性は情報公開制度を利用して陸運局への直通番号を入手。しかし直通番号に電話をしたところ、返ってきた答えは「あなたがこの番号に直接かけることは許可されていません」という言葉のみだった。
何度もかけ直したあげく、ようやく望んだ答えをもらうことができたが、行政の硬直ぶりに憤りを感じた男性は、課せられた税額約3千ドルを、すべて「硬貨」で支払うことを決めたという。(2018/03/30)