個人事業者が、経費として生計を一にする家族に金銭を支払ったとしても、その支出は必要経費とは認められない。例えば、個人事業者である夫が、妻の所有する不動産を賃貸して事業を行い、妻には地代や家賃を支払うというケースでは、個人事業者である夫から妻に支払われた支出は、夫の確定申告で必要経費として計上できないということだ。たとえ、妻が受け取った地代や家賃収入を不動産所得として確定申告していたとしても、夫の確定申告で必要経費として計上することは認められず、妻の不動産所得の確定申告は必要がないということになる。
このような不合理にも見える取り扱いの理由について裁判所は、もともと個人事業は家族全体の協力のもと財産を共同で管理、使用して成り立つものが多く、それについて必ずしも個々の対価を支払う慣行があるものとはいえず、対価が支払われる場合であっても、支払われた対価をそのまま必要経費として認めることとすると、「個人事業者がその所得を恣意的に家族へ分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じる」と、インチキ防止であるとしている。
同居親族での事業は脱税予備軍のような扱いで、まったくもって失礼にも思えるが、それがルールとなっている。なお、「生計を一」とは、必ずしも同じ家に住んでいる必要はなく、生活費や学費などを負担している状態であれば認められるとしている。つまり「同じ財布」という意味だ。
それでは、妻と同居はしているが、妻自身で事業を行い、互いの生活費はそれぞれで精算しているというケースはどうか。妻に支払った地代家賃は必要経費として認められて当然に思えるが、実際には夫婦間や親子間で「同居をしているが、生計は別にしている」との主張が認められることは相当に難しい。
同居している以上は、原則として「生計を一にしている」と決めつけているのが役所の思考ということになる。さらに裁判所は、別の財布で生活していることの証明責任は納税者側にあるとしている。(2018/12/25)