夫に先立たれた専業主婦。これからの収入を得るために仕事を探そうにも、結婚後は一度も働きに出たことがないため、なかなか就職先が見つからない。コツコツと貯めたへそくりを生活費に充てようとしたところ、税務署から待ったがかかった。相続税の対象だというのである。
結婚後ずっと収入がない妻の名義となっている大きな残高の預金が「名義預金」と判断され、実質は夫の財産であるとして相続税の課税対象とみなされることがある。これはへそくりについても同様に考えられる。性善説に立てば、コツコツと貯めた妻の資産であるが、税務の観点からは、亡き夫が将来の相続税の軽減を予測して意図的に妻名義の口座へ振り込んでいた、と考えることもできるというものだ。
また、夫の稼いだ財産を妻が勝手に自分名義の口座に隠していたという仮説も成り立つ。仮に夫から、「家計費以外は君にあげるよ」という贈与の口約束があったとしても、それだけで妻の財産だと認めさせるのは難しい。同様に、子ども名義の預金であっても、年齢の割に高額であれば、やはり名義預金とされる可能性が高い。
こうした課税を避けるには、やはり適正に贈与契約を結んで贈与を実行している必要がある。そのうえで年間110万円までなら課税されることはない。ここでいう「適正に」とは、贈与契約書を作成することだけではなく、贈与後はお金をもらった者が預金通帳、銀行印、キャッシュカードを管理して、お金を独自に運用している状態になっていることだ。
なお、相続税での配偶者控除は1億6000万円まで認められていることから、へそくりを含めた財産がそれ以下の場合、安心して対策をしない人がいるが、この特例はあくまでも申告書を提出することが前提になっている。もしも税務調査が入ってから未申告のへそくりの存在が明らかになると面倒なので、申告漏れがないようにしたい。(2019/03/08)