プロ野球のドラフト会議で指名され、晴れてプロ入りする選手たちはあまり気にしていないかもしれないが、ここで契約金の税務上の扱いについてみてみたい。
原則的に契約金は、事業所得として所得税の対象となる。だが、億単位になることもある契約金の全額をその年の所得とすると、超過累進課税により負担が過重になってしまう。ドラフト1位で入団しても厳しいプロの世界ですぐに良い成績を出せるとは限らず、2年目以降は収入が激減するかもしれない。
そこでプロ野球選手のように所得の変動が激しい職種に配慮した「平均課税」という制度が設けられている。これは、一時的に所得が増えた人の税金を緩和するための制度だ。
平均課税は、漁獲、印税、原稿料などの「変動所得」か、プロ野球選手の契約金などが該当する「臨時所得」のどちらかでのみ利用できる。さらにプロ野球選手の契約金でも、特定の者と3年以上の期間の専属契約を結び、年間報酬額の2倍以上あるものが「臨時所得」の扱いになる。
平均課税の税額は、臨時所得と変動所得の合計額の20 %(5分の1)の金額を超過累進税率に当てはめた金額を5倍にして算出する。仮に、臨時所得と変動所得の両方の所得があり、その合計額が1000万円とすると、その20%である200万円に税率10%を当てはめてさらに控除額を考慮すると税額は約10万円となる。これを5倍した50万円程が納税額だ。
仮に平均課税を用いずに計算すると、1000万円の所得税率は33%なので、控除額を考慮しても約170万円が納税額となってしまう。平均課税が適用できるのは、変動所得と臨時所得がその年の総所得の20%以上である時だが、過去2年分の変動所得と臨時所得の50%がその年の変動所得以上なら、その年の臨時所得が総所得の20%以上でなくてはならない。
所得税法施行令8条「臨時所得の範囲」では、臨時所得に該当するものとして不動産の権利金などのほか、「職業野球の選手など」の契約金と、ドラフト指名選手にとってそのものズバリの例示があり、当局が野球界独特の契約形態に対応した跡がうかがえる。もっとも最近では会社幹部や技術者のヘッドハンティングで支払われる例も出てきており、適用要件を気にするべき人が増えていると言えよう。(2017/12/04)