その所得、本当は誰のもの?

「真実の権利者」とは


 所得税法第12条では、資産や事業から生じる所得を申告している人が「単なる名義人」だった場合には、実質的に利益を得ている「真実の権利者」に所得が帰属すると定めている。どのような名前で稼いだかではなく、誰が実際に利益を得ているかを重視するわけだ。

 

 例えばある夫婦は、共有する不動産からの賃料収入を申告しなかった。建物の所有者は自分たちであっても賃貸契約は妻の父親名義で行われ、賃料についても父親の口座に振り込まれていたからだ。

 

 しかし国税当局は、賃料収入にかかる所得は夫婦に帰属しているとして、追徴課税を決定した。なぜなら複数あった賃貸不動産のうち、一部の賃料は父親名義の口座ではなく、夫婦の口座に直接振り込まれていただけでなく、建物の管理費や不動産の固定資産税も夫婦の口座から振り替えで支払われていたからだ。

 

 さらに国税当局の調べによって、父親名義の口座の住所が途中で変更され、その変更届に記載された筆跡は夫のものに似ていることが明らかにされたという。しかもその口座から出金が頻繁に行われていた場所は、夫の勤務先に近いATMだった。

 

 決定打は口座の名義人である父親本人の供述だ。父親は、「不動産賃貸を行っていないし代理権の授与を行ったこともない。賃貸にかかる利益の分配についても聞いたことがない」と言い切った。自分の名義の口座に賃料が振り込まれていることについても、「口座の存在自体を知らず、もちろん通帳もキャッシュカードも持っていない」と関与を否定した。そもそも父親は娘婿とは10年以上会っておらず、娘とも二世帯同居をめぐるトラブルから疎遠になっていたというのだ。

 

 ここまであからさまな事例は珍しいかもしれないが、所得の真実の権利者を突き止めるために、税務署は徹底的な調査を行う。名義だけ別人にして所得を分けるというようなあさはかな手は通用しないと考えたほうがよさそうだ。