事業承継しようにも後継者が見つからない企業が増えている。これまで中小企業の事業承継といえば、創業者からその二代目、さらには三代目への親族承継がほとんどだったが、最近では外部から第三者を招いて経営を委ねたり、いっそ会社ごと他社に売り渡す「M&A」を決断したりする会社も多いようだ。
なかには、「子に継がせたかったが、自社の先行きが明るくないこともあり引き受けてくれなかった。しかたがないので事業は売り渡して隠居生活に入ろう」と考える人もいるだろうが、ちょっと待ってほしい。子が継ぎたがらないような会社を、第三者がビジネスで買おうとするだろうか。
事業承継の専門家によれば、自社をM&Aで売却しようとする際に大事なのが「自社の磨き上げ」だそうだ。業績の向上はもちろん、無駄な経費支出の削減、事業に必要のない資産の処分、セールスポイントとなる自社の「強み」の成長、段階的な業務の移譲計画の作成など、M&Aに向けてやらねばならないことは山ほどある。
さらにオーナー企業であれば、会社と経営者の間の貸し借りの清算や、資産の公私を明確にしておく必要がある。自社株が分散しているのであれば整理を行い、M&A先にトラブルなく引き渡せるようにしなくてはならない。不要になった家電を処分するのとは違い、会社を売りに出す以上、商品としての価値がなければ話にならないのだ。
M&Aは面倒くさい、それくらいなら廃業してやると考えてしまいそうだが、廃業は廃業で考えねばならないことがある。M&Aと同様に、「いくらで処分できるか」という資産評価をしなければならないし、その結果、債務が資産を上回るようであれば、銀行融資に付けた社長の個人保証が顕在化する。残余財産があれば、高い税率の所得税がオーナーに課されることもあるだろう。
さらに、勤め先を失うことになる従業員の身の振り方も経営者が考えなくてはならない。M&Aにせよ廃業にせよ、簡単にできることではない。どうしても後継者が見つからなければ、経営者は何らかの道を選ばざるを得ない。M&Aで会社を売却するつもりで事業価値を磨き上げた結果、業績が伸びて一度は承継を断った息子が継ぐ気になった、なんてこともあり得るかもしれない。(2018/03/12)