税務職員を主人公とした伊丹十三監督のヒット映画『マルサの女』。総菜屋への税務調査で、店の残り物の扱いを確認するシーンがある。調査官が「売れ残ったコロッケはどうするの?」と聞くと、店主は「食べているよ」となんのためらいもなく答える。調査官が「そうよね、捨てちゃうのはもったいないものね」と話を合わせると、「そうだよ。家族みんなで食べているよ」と店主。すると調査官が「それは売上計上漏れで脱税です」と、追徴税額を告げる。まさにマンガのような場面だが、実際にはいくらでもあるやり取りだ。
個人事業者が自店の商品を自分や家族のために消費することを「家事消費」という。調査の時点で家事消費を疑われ、やむなく「破棄している」とごまかしても、すでに調査官は日頃の廃棄物の中身も把握していることが多いため、言い訳はきかない。
家事消費分があるなら確定申告で1年間の金額をしっかりと見積もり、収益に計上するのがまっとうな処理の仕方となる。顧問税理士がいれば、飲食業や食品販売業なら「自分の店の商品を消費しないはずがない」という観点から家事消費分を計上するよう言われるはずだ。この際、売上として計上する額は、商品の売値の70%か仕入値のどちらか高いほうとされている。1個100円で販売しているコロッケの仕入れ値が20円でも、家事消費で計上する際には70円ということになる。
「捨てるくらいなら」という気持ちから、商売とは関係のない他人にタダであげてしまっても家事消費として課税対象となる。一方、商売上の付き合いのある相手であれば、家事消費ではなく事業消費として、やはり課税対象となる。飲食関係の商売であれば、税務調査で必ず確認される。もしも「どんなに売れ残っても自分の店の商品は絶対に自分では消費しない」ということであれば、原材料や商品の徹底した管理が必要だ。(2019/02/21)