社長が会社に貸したお金

解消しないと相続税の課税対象に


 資金繰りが厳しくなったときの当座の運転資金として、社長個人が一時的に会社にお金を入れるというケースは珍しくない。気が付けば数千万円に膨らんでいるというケースもあるだろう。

 

 こうした会社への貸付金は、社長の身に何かが起こって相続が発生すれば、すべてが相続財産として課税対象となる。手元に現金としてあるわけでもなく、将来的に返してもらえる当てがあるわけでもない借金のツケが、数千万円の税負担に化けてしまうこともあり得る。

 

 赤字の会社であれば、社長に債権放棄をさせた上で、それによって会社に生じた債務免除益を繰越欠損金と相殺していくという方法がある。数年にわたって赤字の範囲内で債権を放棄していくことで、債務免除による法人税負担を負わずに済む。

 

 問題は業績のよい黒字企業だ。法人税負担を抑えながら社長借入金を解消していくには、長い時間をかけての対策を余儀なくされるかもしれない。一つの手としては、設備投資など大きな支出のある年に、債権放棄のタイミングを合わせて両者を相殺するという方法がある。

 

 また生命保険を使って、支払う保険料のうち損金算入する額と同額を債務免除してゆき、満期を迎えた時点で会社が受け取る保険金から残額を返済するというやり方も考えられる。

 

 債権にかかる相続税負担と債務免除益にかかる法人税負担を比べた上で、あえて法人税を受け入れるというのも一つの方法だ。相続財産や会社の規模にもよるが、中小法人には法人税の軽減税率が認められているため、相続財産が3千万円超であれば法人税のほうが「お得」というケースも多いだろう。

 

 どの解決策を採用するにせよ共通しているのは、短期間のうちにできる方法ではないということだ。会社の経営計画とも照らし合わせながら、他の相続税対策と組み合わせて進めていくことが求められる。数十年かけて膨らんだ会社への貸付金をうまくゼロにするためには、相応の時間をかける必要があることを認識しなくてはならない。(2019/04/03)