相続した財産が、預貯金や有価証券、不動産といった、いわゆる「資産」と呼ばれるものばかりで構成されていればありがたいのだが、ときには借金などの「負債」もいっしょについてくることがある。
負債のほうが資産よりも多ければ相続放棄ということも考えられるだろうが、資産が多ければマイナス財産もあわせて相続することになる。その際は、資産と同様に負債も相続人の間で分けることになる。相続される負債は、大抵の場合は金銭債務だ。
これは不動産などの資産に比べて分配が容易であるため、分割を待つまでもなく相続分に応じて分けることになる。このとき気になるのは、連帯責任の有無だ。
相続税については、財産をどのように分配しようとも相続人全員が連帯責任を負うことになる。そのため、残された借金についても、相続人の誰かが返済不能となったときは、他の相続人に返済責任が生じるのではないかと不安になるところだ。
これについて判例では、相続開始と同時に相続分に応じて分割された借金については、それぞれの相続人は連帯責任を負うものではないと判断している。また、相続分と異なる遺産分割が行われたときも、債務は相続分によって定まるものであり、遺産分割によって勝手に配分されるものではないという判断が一貫してなされてきた。つまり、遺産分割協議の対象にすらならないということだ。
相続人にとってはなんともありがたい話だが、しかしこれを逆の立場になって考えると実にありがたくない話に一変する。貸した側の立場としては、各相続人の資産の差によって、一部回収できない可能性も生じることになるからだ。これについては、事前の担保権の設定などで対処するしかない。債権者の地位にあぐらをかいていると、取り損なうおそれもあるので気を抜かずにいたい。(2019/05/31)