役員報酬は原則として、あらかじめ決められていた額を定期的に支払う場合を除いて、損金に算入することはできない。数少ない例外の一つが、法人の経営状況が事業年度中に著しく悪化するなどの「業績悪化改定事由」だが、これについても国税庁の指針を定めた通達では「法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する」と、厳しく運用されることが明記されている。
役員給与は会社から受け取る給与額を役員自らが決めるため、いわゆる「お手盛り」的な支給が懸念されることがその理由と言われる。とはいえ、役員給与の損金算入を制限する理由は、企業の意図的な利益減らしを防ぐことにある。つまり合理的な理由があれば、通達にある「一時的な資金繰りの都合」や「業績目標値に達しなかったこと」であっても、報酬額の改定が認められる可能性は十分にあるといっていい。
国税庁が公表するQ&Aによれば、「上半期の業績が予想以上に悪化したため、株主との関係上、年度の途中に経営上の責任をとって役員が自らの定期給与の額を減額した」という事例について、株主や債権者、取引先といった「利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情」があるとして、業績悪化改定事由に該当すると判断している。
また、売上の大半を占める主要な得意先の経営が悪化していることを理由に、役員給与の減額を含む経営改善計画を策定したという企業に対して、「役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められる」として、業績悪化改定事由による損金算入を認めると結論付けている。
つまり、業績悪化事由にあたるかあたらないかは「その改定に故意の利益減らしの意図があるか否か」によって判断されているわけだ。業績悪化の見込みを前提として経営改善計画を策定し、これを社内だけでなく取引先や銀行に報告するなどの説得材料を用意することで、報酬額の改定を認められる可能性が高くなるといえるだろう。(2019/01/30)