子どものいない夫婦。祖父母も父母もすでに他界している。この場合、夫の遺産は、妻がすべて相続できると考えがちだが、民法の規定によると、子どもや親がいない夫婦であれば、兄弟姉妹にも相続の権利が発生する。妻は全財産の4分の3しか受け取れず、あとの4分の1は兄弟姉妹に渡ってしまう。
妻にすべての財産を残したいときに効果を発揮するのが「遺言」だ。財産の分け方は民法で法定相続分が定められているのだが、この分割割合は絶対的なものではなく、被相続人が遺言書を残していればその内容が優先される。
ただ、法定相続人には「最低限これだけは相続できる」という取り分の「遺留分」が保障されていて、それを下回る財産しか受け取れなければ、遺留分までを渡すようにほかの相続人に請求できる。これは遺留分の減殺請求といわれ、たとえ被相続人の妻であろうとも従うしかない。
そのため、「遺言には限界がある」と考えて遺言を書かずに法定相続に従う人がいるが、これはじつにもったいない話だ。じつは、兄弟姉妹には遺留分は認められていない。そのため、配偶者に全財産を相続させる内容の遺言があれば、兄弟姉妹はなにも請求できない。
家庭裁判所が扱う遺産分割に関する事件数は増加傾向にあり、2000年に8889件だったものが16年度には1万2188件と4割近く増えている。相続が〝争族〞とならないための準備は、生きているうちにするしかない。(2019/06/03)