従業員45・5人以上の民間企業に雇用されている障害者数は、昨年6月時点で約53万人。全従業員に占める実雇用率は2・05%と、年々わずかながらだが上昇を続けている。先の参院選では、れいわ新選組から出馬した重度身体障害者の新人候補2人が比例代表で当選を果たすなど、障害者の社会進出が国民的関心事になりつつある。そうしたなか、民間企業の障害者雇用率についての行政指導も勢いを増している。
従業員が一定数以上の規模の事業主は、身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務が障害者雇用促進法で定められている。現在の民間企業の法定雇用率は2・2%。従業員を45・5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなければならないことになる。厚労省によると、対象企業に雇用されている障害者の数は前年より7・9%増加し、15年連続で過去最高を記録した。実雇用率も初めて2%を超え2・05%となっている。
ただ、法定雇用達成率は、記録をはじめた1977(昭和52)年の52・8%以降、86(昭和61)年の53・8%をピークに平成以降は減少を続け、昨年は前年比4・1ポイント減の45・9%にまで落ち込んでいる。
全国的に約半数の企業が法定雇用率を達成していない状況が続くなかで、15年4月には雇用達成率に応じて報奨金を支給する障害者雇用納付金制度が改正され、従業員100人超200人以下の企業も対象となった。
この制度は、100人超の常用労働者がいる企業が法定雇用率を達成できなかったときに「障害者雇用納付金」というペナルティー金を徴収する。そして集めた「納付金」を元手に、法定雇用率を達成している企業に対しては「調整金」や「報奨金」という名のボーナスを支給するというものだ。
障害者の雇用にあたっては健常者の雇用に比べて作業設備や職場環境の整備など一定の経済的負担を伴うケースが多いことから、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図るというのが制度の趣旨だ。
ペナルティーである納付金は毎年4月1日時点の未達成の雇用障害者1人あたり月額5万円。2人の障害者の雇用が義務付けられている従業員100人の会社で、雇用する障害者がゼロであれば、5万円×2人×12カ月で120万円の「調整金」を納付することになる。なお、従業員200人以下の企業は来年3月末まで1人あたり4万円とされている。
一方、雇用障害者が法定人数を超えているときに支払われるボーナス金は従業員100人以下の企業も対象となり、100人以下の企業に支給される「報奨金」は対象となる障害者1人あたり2万1000円、100人超の企業に支払われる「調整金」は1人あたり2万7000円となっている。
さらに、事業所で勤務せずに在宅のまま障害者に仕事を発注したときには「在宅就業障害者特例調整金」や「同特例報奨金」が支払われる。対象となる全ての事業者には、4月1日から5月15日までに障害者の雇用状況についての申告と調整金の納付義務があり、雇用率を超過した企業には10月31日までに調整金等が支払われる。
雇用障害者数は、20時間以上30時間未満の短時間労働者が0・5人、重度障害者が1人としてカウントされる。また障害者の雇用に特化することを認められた「特例子会社」のグループ企業は子会社を含めて計算することができる。だが、これらは大企業への優遇措置であり、中小企業が適用するのは難しい。障害のある人への雇用機会の創出は企業の社会的使命ではあるが、やはり資金的な余裕も必要で、中小企業で法定雇用率を達成するのは容易ではない。
そのため、未達成障害者1人あたり月額5万円もの「納付金」を毎年納めざるを得ない企業が半数以上を占めている結果となっている。これは結果的に未達成を金で解決していることになるのだが、ここで「払えばいいんだろ」と開き直るのは危険だ。
前述の納付金制度の報告とは別に、従業員45・5人以上の企業は毎年6月1日時点での障害者雇用状況をハローワークに報告する義務がある。そこで「行政指導の必要がある」と判断されると、障害者の雇用に関する計画書の作成を命じられる。さらに、その計画書の中身が不十分な企業や、立てた計画を全く実施しない事業者には是正が勧告され、それでも改善が見られないときは、計画期間終了後に「特別指導」が実施され、その後、企業名の公表に至る。
企業名の公表にまで至ったケースは多くはないものの、09年度は7社、14年度は8社など、一定数に上ることもある。障害者の雇用問題に詳しい都内の社会保険労務士は「障害者の社会進出に対する社会的な関心と理解が高まるなか、世論を背景に行政指導が厳しくなってくるのは確実」と指摘する。毎月5万円のペナルティーも厳しいが、それ以上に社名の公表はイメージの悪化にもつながりかねず、中小企業としては避けたいところだ。
なかには雇用率達成のために無理な雇用調整をする事業者もあるようで、「いつも通っている食堂のマスターの母親が障害者であるということを聞いて、頼み込んで在宅就業障害者として契約したという企業がありました」(前出の社労士)と、すでに偽装雇用に近い形でしのいでいる事業者も出てきているという。
なお、昨年は役所による障害者雇用の偽装が話題になったが、昨年度、行政機関で法定雇用率2・5%をクリアしているのは、市町村で69・6%、都道府県で61・5%、そして国の機関では18・6%という結果だった。ちなみにどれほど未達成であっても公の機関に罰則はない。
(2019/10/01更新)