相続時に把握していなかった財産が相続税の申告後に見つかると、相続人は新たな遺産分割協議書を作成し、修正申告しなければならない。手続きの面倒さを嘆くことになるが、申告漏れ財産が見つかればまだ良いほうで、利益を生み出す財産がずっと知られないまま放置されると、国のものになってしまうことさえある。誰にでも家族に教えられないヒミツがあり、知られたくない財産があるかもしれない。しかし、財産を譲り受ける立場としては、相続手続きの前に「親は財産をどれだけ持っているのか」ということを知っておきたいはずだ。残された親族が〝ほったらかし財産〞に悩まされないためにはどうすればよいのか。
都内の一等地に住んでいた男性が死亡し、相続が発生した。相続財産には家屋、預貯金、自社ビル、自社株などがあり、各相続人はそれを基に相続税申告をした。数年後、相続人が把握していなかった不動産が北関東にあることが発覚する。申告漏れ財産がほかにないか税理士に調査を依頼した結果、いくつかの口座も相続財産に含めていなかったことが分かった。相続人は新たに見つかった財産について遺産分割協議を行い、修正申告をする。そのときの相続人の思いは、「後から財産が見つかったのは、驚くとともに嬉しい話ではあった。でも、相続手続きをしているときにちゃんと見つかっていれば、余計な負担がなくて済んでいたと考えると、少し悔しい」というものだった。
預金口座や不動産などの財産を相続人が把握できず、相続手続き後も名義変更しないままほったらかしになってしまうことがある。後で気づいてから遺産分割協議をやり直すほか、相続税の修正申告もしなければならない。万が一気づかないままだと、知らないうちに国や地方自治体の所有物になってしまうこともある。
このような状況になるのは、死亡した人が生前に対策を講じなかったせいでもある。自分の財産を漏れなく記した目録や遺言を作成しておけば、相続人が知らない相続財産が生まれることはない。生前に財産について子どもと話しあっておくことも大切だろう。
残された家族としては、把握できる財産をもとに相続税申告するしかないが、可能な限り漏れがないように申告するにはどのような点に気を付けるべきだろうか。
国税庁の最新データによると、平成27年度の相続税調査で発覚した申告漏れ財産は2945億円だった。このうち、現金・預貯金が金額ベースで全体の35・2%を占め、土地(13・9%)、家屋(2・2%)、有価証券(12・4%)を大きく引き離している。
被相続人の預貯金を把握するには、年金や給料の受け取り、株式の運用、公共料金やクレジットカードの支払いに使っている金融機関を調査する。さらに、遺品のなかに金融機関のカレンダーがあるときや、葬式に金融機関の人が参加していたという資料があるときは、その金融機関の口座があることは容易に想像できる。被相続人が契約していた貸金庫に通帳が保管されていることもある。これらの手がかりをもとに被相続人の預貯金をきちんと確認する必要がある。相続が発生したときだけではなく、親が認知症になって自分の財産を把握できなくなったときも、同じような方法で預金口座を調べることが可能だ。
このほか、最近は海外に資産を持っている人が増えたことも財産の把握漏れに拍車をかけている。特にアメリカやアジアに財産が隠れていることが多いことが国税当局の資料で明らかになっている。27年度の相続税調査で非違が見つかった相続122件のうち、北米に財産があったのは61件と半数を占める。アジアの40件、欧州の12件、オセアニアの8件と続く。相続人の意図的な財産隠しだけではなく、相続人が知り得なかった財産が海外にあることもある。被相続人の海外渡航記録や海外口座をチェックする必要がある。
さらに、愛人がいたようであれば、財産が隠れている可能性が高くなる。代表的なのが愛人にマンションを無料で貸し与えている可能性だ。愛人には相続権がないので、基本的にマンションは相続財産として配偶者や子どもが受け取ることになる。ただし、もし愛人と養子縁組をしていると、相続人同士の争いが過熱しかねない。
いわゆる大資産家ではなくても、ほったらかし財産が後から見つかるおそれは否定できない。自主的に修正申告すれば加算税は掛からないが、税務調査後に見つかれば過少申告加算税の対象になる。残された親族は財産を可能な限り把握するように努める必要があり、また財産を残す立場の人は家族を不安にさせないように対応を講じるようにしたい。
(2017/01/03更新)