いまや国民の2人に1人が発症していると言われる花粉症。ピーク時には家族全員でドラッグストアや病院の世話になるという人も多いだろうが、その際のレシートを捨ててしまってはもったいない。花粉症はれっきとした〝病気〞であり、花粉症対策は「医療費控除」や「セルフメディケーション税制」などの税優遇の対象になり得る。どこまでが優遇対象か、両制度のそれぞれの特徴を知ることで、ツラい花粉症に使ったお金を賢く取り戻すことが可能だ。
日本気象協会によれば、2月に本格的に飛散し始めたスギ花粉は、3月上旬には早くも飛散量のピークを迎え、4月上旬まで続くとされている。さらにスギ花粉と入れ替わるように、4月上旬にはヒノキ花粉がピークを迎え、花粉症に苦しむ人にとってはツラい状況が続く。理由は定かではないものの花粉症の患者は年々増え続けていて、東京都の調査によれば、この30年間で花粉症患者は人口の10%程度から48・8%まで増加しているという。
花粉症の症状は人によってまちまちだが、花粉症対策のうち目薬や抗アレルギー作用のある市販薬などにかかった費用は、10万円を超えた分を所得から差し引ける医療費控除の対象となる。病院にかかった際の費用ももちろん控除の対象だ。10万円と聞くと大きな額に思えるが、その年にかかった他の医療費と合算できる点、また家族の分も合計できることを考えれば、がぜん実用性は高まってくるだろう。
例えば、花粉症対策として鼻炎薬や目薬をドラッグストアで買う人は多いだろうが、これらの薬は原則として、すべて医療費控除の対象だ。医者にかかったのなら、交通費も治療にかかった医療費として計上できる。
花粉症がひどい人なら、毎年、花粉が飛散する前の1月〜2月に病院でステロイド注射を受けておくというケースも多い。「予防」にかかる費用は原則として医療費控除の対象とはならないが、花粉症に関してはあくまで「早めの治療」として認められ、控除対象に含まれる点もありがたい。
最近では、アレルギー物質を含むエキスを舌の裏に投与して免疫力を増加させるという「舌下免疫療法」を受ける人も多いが、この舌下免疫療法も診察料や検査費はすべて控除対象だ。同療法は数年間継続する必要があり、初年度にかかる費用は4万円〜5万円程度といわれる。ただし副作用があり、人によって〝効き〞の相性もあるので、利用の前にはリスクなどを踏まえた検討が必要だ。
花粉症関連で医者にかかるものはほぼ医療費控除の対象と考えて差し支えないが、微妙なのが花粉症かどうかを確かめるアレルギー検査の費用だ。これは人間ドック費用と同様、原則として控除対象にならないが、検査の結果アレルギーが発見されて、治療が必要となれば検査代も控除対象に含まれる。検査の段階から〝治療〞が始まっているという解釈だ。少なくとも花粉症に悩まされている人が「どの種類の花粉に反応しているのだろう」と検査を受ける分には、控除対象と認められる可能性が高いと言えるだろう。
残念なのは、花粉症患者が手放せないであろうマスクやティッシュペーパーの購入費は、原則として控除対象とはならないということだ。また花粉をカットする眼鏡も対象にならない。
さらに薬のなかでも、漢方薬やサプリメント(栄養・健康補助食品)など「医薬品」の表示のないものは、医師の指示がある場合を除いて対象にならない。顔に噴射することで花粉の付着を防ぐという売り文句のスプレーも医薬品ではなく雑貨扱いのため、医療費控除には含められない。
控除対象となるのは、原則として「医薬品」表示があるものと覚えておきたい。ただしマスクにせよ漢方薬にせよ、医師が治療のために必要であると判断した時には、治療費の一環として控除対象に含まれる。
もっとも、同じ年に大きな病気などを患わないかぎり、年間の医療費が10万円を超えることは珍しいかもしれない。調査会社マクロミルの調べによれば、花粉症の人が年間に花粉症対策にかける予算は、平均4550円だという。家族4人全員が花粉症だったとしても、単純計算で1万8200円と、10万円には遠く及ばない。
そうした時には、医療費控除との選択適用となる「セルフメディケーション税制」を検討したい。同制度はスイッチOTC薬と呼ばれる一部の市販薬に対象が限られているものの、1万2千円を超えた部分が所得から差し引け、医療費控除に比べて適用のハードルは格段に低い。
花粉症の薬も多く含まれていて、花粉症対策の定番であるアレグラFX、アレジオン20などに加え、アレグラの後発品であるアレルビなども税優遇の対象だ。また点眼薬ならアイリスAGガード、ザジテンAL点眼薬など、鼻炎薬ならザジテンAL鼻炎スプレーαやナザールARなどが適用できる。対象薬品にはパッケージに専用マークが記載されているので、店頭で確認の上、購入したい。
年間の医療費10万円というのはなかなか届くものではなく、実際にはこちらのセルフメディケーション税制が現実的な選択肢となってくるかもしれない。そう考える人は多いようで、セルフメディケーション税制がスタートした2017年のスイッチOTC薬の売上は前年比3・0%増、18年には3・8%増(見込み)と着実に増え、鼻炎治療剤の売上増とリンクしているようだ。
花粉症に対する根本的な治療法が確立されていない現状では、薬などで症状を軽減し、花粉の季節が過ぎ去るのをただ待つしかない。せめて税金だけでもしっかり取り戻したい。
(2019/05/16更新)