自社に潜む〝時限爆弾〟

危険な名義株に気をつけろ!

長男名義の株でも相続財産に該当?


 戸建て住宅販売大手の飯田グループホールディングス(GHD)が、創業者の相続に絡み、東京国税局に80億円以上の相続財産の申告漏れを指摘された。申告から漏れていたのは関連会社の「自社株」で、長男名義であったにもかかわらず創業者の財産に当たると認定されて40億円にも上る追徴課税をされたという。名義上の所有者と実質的な所有者が異なる「名義株」は、会社にとって、いわば〝時限爆弾〞のような存在ともいえる危険性をはらんでいる。企業の規模を問わず、中小企業も名義株のリスクを認識しておかなければならない。


 飯田GHDの創業者である飯田一男氏は、昭和42年に飯田建設工業を設立し、その後、成長に伴って不動産売買を行う東栄住宅、分譲事業を行う飯田産業など多くの子会社を設立してきた。飯田GHDは、それらの子会社6社が経営統合して13年に設立された共同持株会社で、一男氏がその会長に就任したが、同年中にこの世を去ることとなった。

 

 建設業界の立志伝中の人物でもある一男氏だけに、遺された資産も相当の額だっただろう。当然、やり手の顧問税理士との相談の上で万全の相続対策をとっていたはずだが、思わぬところに落とし穴があった。

 

 東京国税局が申告漏れを指摘したのは、一男氏から長男に引き継がれた飯田GHDの資産管理会社の株式だった。遺族は相続税を納めるに当たって、不動産や預金、関連会社を含む自社株についても相続財産として申告をしていたが、飯田GHDの株を保有する資産管理会社の一部の株式については、相続財産に含めていなかった。その価額はざっと80億円余り。国税当局は、過少申告加算税などを含めて40億円超を長男に課し、長男もすでに納付しているという。

 

 なぜ遺族が一部の自社株だけを相続財産に含めていなかったかといえば、その株式が長男名義のものだったからだ。自社株の一部を生前に遺族に贈与することは相続税対策として珍しい話ではなく、おそらくは同社の関係者も「この株式についてはすでに長男のものだから相続財産ではない」と判断したのだろう。しかし、国税当局は長男名義の株式を「名義株」と認定し、実質的には創業者である一男氏が所有していたものとみなした。

 

 「名義株」とは、株式の名義上の所有者が誰であれ、実質的な所有者が他にいるのであれば、真の所有者は後者であるとみなされる株式のことだ。最高裁の昭和42年の判決では自社株について「名義人ではなく実質上の引受人がその株主となる」と判示し、昭和57年の東京地裁判決ではその判断基準として、株式取得資金の出資者、名義人と引受人の関係、取得後の配当金の帰属状況などをもって総合的に判断するべきとしている。飯田GHDのケースでは、長男名義の株式の取得に際しての資金を一男氏が負担していたことから、「名義株」であると認定された。

 

 相続税の税務調査対策を考える際の重要テーマとしては、名義は配偶者や子の名前になっているものの通帳などを管理していなかったために相続財産とみなされる「名義預金」が挙げられることが多いが、「名義株」も、名義預金と並んで税務調査で狙われる可能性が高い項目だ。飯田GHDのように相続発生まで名義株を放置してしまうと、多額の税負担を強いられることになるだろう。

 

株の散逸が経営上のリスクに

 さらに相続税と並んで名義株が引き起こす、もう一つの大きな問題として、自社株の散逸リスクの増大がある。飯田GHDのケースでは実質的な株主と名義上の株主が親子であったため問題は起きなかっただろうが、これが遠い親戚や他人であれば、たとえ名義上の株主であっても自社株が分散してしまう可能性はそれだけ高くなる。

 

 相続などでさらに遠い親戚にまで株が渡ってしまうこともあるし、最悪の場合、会社にまったく関係のない第三者が入り込む恐れも否定できない。しかも相続が発生して当事者らがいなくなれば、どこまでが「名義」でどこからが「実質」の保有者かの事実確認も難しくなり、名義上の株主にいつの間にか本当に所有権を奪われる可能性もゼロではない。自社株が散逸してしまうと、経営上の大きな障害となることは言うまでもない。

 

 名義株をめぐるトラブルへの予防法としては、相続が発生する前、つまり生前に株式を実質上の保有者の元に集約しておくことが考えられる。飯田GHDのケースでも、一男氏の生前に長男名義の株式を一男氏に書き換えた上で、贈与などを使って税負担の軽い形で引き継いでおけば、40億円の追徴課税を食らうこともなかったはずだ。スムーズに自社株の集約が進めば第三者への散逸リスクも解消でき、何も問題はない。

 

 ただし、「スムーズ」に集約が進めばの話で、「名義株」の問題が一筋縄ではいかないゆえんは、自社株の集約に伴う障害の多さにあるといっても過言ではない。

 

 たとえ株式の取得資金を負担したのが自分であろうとも、株式の名義を書き換える際には、名義上の所有者に了解を得なければならない。順調に了解を得て名義の書き換えが進めば何の問題もないが、相手が株主としての権利を主張してきたり、書き換えを拒否してきたりすれば、交渉を経て相手に納得してもらう必要が生じるだろう。

 

資金がなければ買取も困難

 それでも納得を得られなければ、少数株主の株式を強制的に買い取ることが会社法で認められているが、同制度を使うためには、買い取る側の株主が議決権の9割以上を保有しているという条件を満たす必要があるし、さらに買い取るための資金も当然必要となる。元をたどれば出資したのは自分なのに買取資金が必要になるというのは納得できない話だが、対応を先延ばしにして相続が発生してしまえば、事実確認が難しくなることによって、問題の解決はより困難になってしまう。

 

 また、仮に名義上の株主が家族などの気心の知れた相手であっても、放置すれば飯田GHDのように相続税が膨れ上がるリスクを抱えることになる。名義上の株主が誰であれ、名義株はいわば会社にとっていつ爆発してトラブルになるか分からない〝時限爆弾〞のようなものだと言える。

 

 こうした名義株の問題に、特に気を付けねばならないのが、平成2年以前に設立した会社、つまり創業27年を超える企業だ。現行制度では、会社の設立に必要な発起人は1人だが、それは平成2年の商法改正以降のことで、それ以前は発起人を含めて数人の株主が必要とされていた。

 

 とはいえ実際には、新規に立ち上げる会社のために出資をしてくれる人はなかなか見つからなかったため、社長が親戚や知人から名前だけを借り、株式の取得資金は社長が全額を負担するということが当たり前に行われていた。これが多くの名義株の原因となっているわけだ。

 

 会社が安定した頃に、実質的な出資者である社長に株を集約していればいいが、怠ったまま現在に至っている会社も少なくない。つまり、多くの30年企業が腹の中に〝時限爆弾〞を抱えたままの状態を続けていることになる。中小企業経営者の高齢化が進むなかで、名義株問題が顕在化する企業はさらに増えてくるだろう。

 

 名義株の解決を難しくするのは、経営者の相続だけではない。名義上の株主に相続が発生すると、たとえ名義貸しをした本人が納得していても、代替わりした相続人が素直に納得してくれる保証はないからだ。揉めれば最悪の場合、株式の所有権を争って裁判に持ち込まれるリスクもある。名義株を放置すればするほどトラブルに発展する可能性が増大することを踏まえ、一刻も早く名義の書き換えなどの対策に手を付けねばならないだろう。

(2017/05/29更新)