配偶者控除の見直しや自社株評価のルール変更などを盛り込んだ2017年度税制改正法が成立した。中小企業や高所得層に影響を及ぼす改正が多く、今後の経営プランや資産形成に大きく関わってくることになる。要点をしっかり押さえておきたい。
「損失出して株価圧縮」の効果激減
相続税対策に大きなウエートを占める自社株評価のルールが見直された。特定の時期に大きな損失を計上して自社株評価を抑える節税策に対応するため、評価方法を算出する計算式のうち、「利益」が占める比重を現行の3分の1まで引き下げるもの。
自社株を評価する方法のうち類似業種比準方式では、配当と利益と純資産をそれぞれ「1:3:1」の比重で株価に反映させていた。利益の割合が他に比べて大きいため、例えば役員退職金の支払いや不動産の含み損を整理することなどで損失を計上して利益を圧縮し、結果的に自社株評価を大きく引き下げることが可能となっていた。
そのため17年度改正では、三者の比重を「1:1:1」に改めた。利益調整での相続税対策が難しくなることに加えて、純資産額の大きい会社は自社株評価額がこれまでより上昇することになる。
事業承継の特例がさらに拡充
事業承継の時に生じる自社株の税負担を大きく軽減する「事業承継税制」が拡充された。要件を満たせずに納税猶予が取り消された時に、2500万円までの贈与を非課税にできる「相続時精算課税」が利用できるようになった。
これまでは、自社株の贈与後に要件が満たせなくなれば「暦年課税」で贈与額が計算され、多大な税負担が生じていた。改正後は、贈与税の猶予が取り消されることになっても、2500万円までは一律20%の税率となり、加算税も付かずに済むようになる。
賃上げ分の最大22%法人税軽減
賃上げした企業の法人税負担を軽くする「所得拡大促進税制」について、中小企業が前年から2%以上賃上げした時は減税幅を最大22%に拡大する。これまでは、給与支給総額が12年度から3%増加、給与支給総額が前年度以上、従業員1人当たりの平均給与が前年度以上――の3要件を満たす企業が、賃上げ総額の10%を法人税額から税額控除できるという制度だった。
17年度改正ではこれを、前年度比2%以上の条件を満たす中小企業を対象に、賃上げ総額の最大22%を法人税額から差し引くことができるようにした。
所得1120万円超は増税に
女性の就労進出を阻んでいると言われた「103万円の壁」の引き上げと、その税収減に伴う代替財源としての所得制限の導入が盛り込まれた。
これまでの配偶者控除では、妻(夫)の収入が103万円以下であれば、夫(妻)が38万円の所得控除を受けられた。また103万円超でも141万円までは段階的に配偶者特別控除を受けることができた。
改正では、この配偶者控除の条件である103万円を150万円に、配偶者特別控除の上限である151万円を201万円に、それぞれ引き上げた。今後は配偶者の収入が年間150万円以下であれば38万円の所得控除を受けることができ、150万円を超えると収入が5万円増えるごとに控除額が段階的に減り、201万円を超えると税優遇がなくなる。
減税対象を拡大することで減る税収を補うため、同時に高所得者への制限も導入する。本人の収入が1120万円を超えると本来38万円ある控除枠が26万円に縮小し、1170万円以下で13万円に、本人の収入が1220万円を超えると配偶者控除の適用はゼロになる。高所得者に負担を強いてまで103万円の壁撤廃に踏み込んだ形となった。
タワマン節税は依然有効
高層マンションの上層階と下層階の価格差を生かした〝タワマン節税〞規制の具体案は、固定資産税負担の按分ルールの見直しに落ち着いた。高さ60メートル以上、おおよそ20階以上の高層マンションを対象に、1棟の固定資産税額を据え置きにした上で、中間階から上に行くほど増税に、下に行くほど減税にする。すでに高層階に住んでいる層からの反発を考慮して、新たな計算方法が適用されるのは17年4月1日以降に売り出された新築物件のみに限定された。
固定資産税で数%の変動に過ぎないため資産価値とのかい離を埋められたとはいえず、タワマン規制への抑止力とはならないだろう。ただし国税庁は実売価格と税負担に著しい差が認められるケースについては税務調査を積極的に行う姿勢を示しており、〝やりたい放題〞というわけではないことに注意したい。
NISAはiDeCoとの使い分けがカギ
少額投資非課税制度(NISA)の非課税期間が20年となる新タイプの「積立NISA」が登場する。年間の投資上限額は40万円と現行のものに比べて少額になるが、期間が20年に延びる。ただし、両方の制度を併用して使うことはできず、「年120万円で5年」か「年40万円で20年」のどちらかを選択することになる。
投資益を非課税にする資産形成手段としては今年から拡充された個人型確定拠出年金(iDeCo)がある。しかし、iDeCoは非課税期間に制限がないものの、60歳になるまで払い出しができないなどの違いがあり、それぞれの特徴を把握した上での使い分けが、資産形成のカギを握ることになりそうだ。
国外居住要件は一気に2倍の10年超
富裕層による「国境を越えた税逃れ」を防止する取り組みの一環として、国外に住む人への相続税の課税要件が、国外居住年数10年超に改められた。
相続人と被相続人の両方が5年を超えて海外に住んでいる場合、海外資産に対しては日本国内での相続税が課されない現行の要件が一気に2倍となる。国外居住が10年以下で、どちらか一方でも日本に住所があれば課税対象となる。要件を満たしていても、国内にある財産には日本の相続税がかかる。
(2017/03/29更新)